61話 お宝ざます!

「ヨシノゥユー、落ち着け、落ち着くんだ。」

一番落ち着いていないのはミドナリフフだ。

「この中で一番換金性が高いのは魔石ですね。この道具とか何するものなのかも分からないですし、あの書物を買おうという人がすぐに出てくるとも思えないです。」

「一冊や二冊ならともかく、棚にあんなにあるのではな……」

裕の話に、ミドナリフフは頷いて見せる。

「私は本を頂ければそれで構いません。エレアーネは欲しいものはありますか?」

「えっとね……、あれ、良い?」

エレアーネは実験室を出ると、寝室へと向かう。そこでエレアーネが手にしたのは、壁に掛けてあった長さ五十センチほどの杖だ。

「魔導杖? なるほど、ハンターならそれが一番なのかもしれないな。だが、魔石が付いていないぞ?」

ミドナリフフが指した杖の先端には、何やら窪みがある。本来、そこに魔石が嵌まっているものらしい。

「魔石ならいっぱいあるじゃないですか。ちょうど良い大きさのを探してみましょう。」

杖の窪みはそう大きくはない。直径五センチほどの魔石はコレクションの中では最小クラスだ。

その中から桃色聖属性橙色水属性の二つを選んで嵌め込んでみる。

すっぽりと納まった魔石はちょっと杖を振ったくらいでは取れてしまうことは無さそうだった。

エレアーネは満足そうに杖を腰に差す。

「とりあえず、金目のものから頂いていきましょう。私たちが離れている間に他の人に見つけられてしまうかもしれません。」

まるで盗賊のような言い分だが、ミドナリフフもミキナリーノも大きく頷く。持ってきていた袋に魔石を詰め込んでいく。

目ぼしいものの物色が終わり洞穴から出ると、裕たちは一直線にセルコミアを目指して森の上を駆け抜けていく。

無重力走行にも慣れてきたようで、ミドナリフフとミキナリーノのスピードも上がっている。往路の倍ほどのスピードで走っていけば、日没までには領都に着く。

息を切らせながら畦道あぜみちを走り抜けて門前に着くと、裕とエレアーネはミキナリーノたちと別れて、東へと向かっていく。

あくまでも裕はセルコミアの町に入る気はないらしい。今からではさすがの裕も隣の町に着くのは深夜になってしまう。野宿することになるが、エレアーネもそんなことは気にもしない。

町に戻ったミドナリフフは、やる事が盛りだくさんだ。従業員に指示をして馬車の準備を指せて、自分はハンター組合へと向かう。

「不死魔導士の研究所だが、それらしきものを発見した。」

「よく見つけましたね。不死魔導士の物だというのは確かなのでしょうか?」

「あ、ああ。見つけたのは旅の途中で遭ったハンターでね。巨大な骸骨の化物が守っていたので間違いないだろうと。」

ミドナリフフは簡単に説明するが、受付の男は胡乱気な目を向ける。数日前にここのハンターと調査の話をしていた際には、他所のハンターにも頼むなどということは言っていなかった。

「少々問題もあってな、ヘナイチャンはいるか?」

ミドナリフフはハンター組合の支部長を気安く呼ぶ。ムッとしながらも職員は席を立つと、奥に確認に行く。

「おう、ミドナリフフ。何か分かったのか?」

すぐに扉からヘナイチャンが顔を出して声を掛けてくる。この二人は子どものころからの知り合いで、かなり気安い関係らしい。

「まず初めに行っておく。見つけたのはヨシノゥユーだ。」

扉が締められたのを確認すると、早速ミドナリフフは切り出す。

「ヨシノゥユー? 彼が来ているのか?」

「この町には入っていない。見つかったらさすがにマズイと言い張ってな。」

「いや、マズイだろ。」

「それで、こんなのが見つかった。」

ミドナリフフは鞄から大きめの魔石を取り出す。直径二十センチほど、青色に輝く風属性の魔石だ。

「何だこれは!」

「魔石だ。」

「いや、それは分かる! こんな大きさの見たことが無いぞ!」

ヘナイチャンは声量を押さえながら語調を強める。

「こんなのがゴロゴロしているうえに、私には価値が分からぬ物もいっぱいあってな。それに、調査できていない部分もある。洞穴の調査が得意な者というのはいないか? 森とは違った危険があるという。素人が安易に深くまで立ち入るものではないとヨシノゥユーは言っていてな。」

難しい顔で話を聞いていたヘナイチャンは、さらに眉間の皺を深くする。

「洞穴の調査に長けた者なんてこの町にいるかよ。エスケラあたりで探してくるんだな。」

「やはりそうなるか……。ならば、調査は追々、ゆっくりやっていくしかないな。となると、まずは運び出せるものを運んでしまいたい。信用できる者を早急に頼めるか? 周辺の魔物退治と馬車の護衛を依頼したい。」

「信用? ハンターは信用ならないか?」

ミドナリフフの言葉にヘナイチャンが咬みつく。彼らだって、プライドを持ってハンターをやっているのだろう。ならず者のように言われればいい気分はするまい。

「普段扱っているものと値段が違う。馬車一台で金貨何千枚だぞ? 桁が違いすぎる。魔物にでも襲われたことにして他の者を殺して独り占めすれば、一生遊んで暮らせる。」

通常の隊商では、馬車一台の荷物は全て売り払っても金貨三百枚がせいぜいだ。しかも、独り占めしようにも、自分一人では馬車一台しか持っていけず、残りの何台もの荷物は捨てていくしかない。

欲を張れば張るほど、犯行に抑止が掛かる。

今回はそれが全くないのだ。ミドナリフフが「信用できる者」と念を押すのは当然の心理だろう。元手を払っていないお宝が持ち去られるだけならともかく、いきなり殺されては堪らない。

金に目が眩んだら何をするか分からない者はどこにでもいるのだ。

「成程、言いたいことは分かった。だが、そこまで神経質になる必要があるか?」

「それと、ヨシノゥユーのことだ。つい、うっかりにでも彼が来ていることを漏らされては困る。」

「そうなると、あいつらだけか。四級だが構わないな?」

ヘナイチャンはベルを鳴らして職員を呼ぶと、四級パーティー『春茨』が町にいることを確認する。

「指名の依頼だ。彼らが来たらすぐに私に取り次いでくれ。」

「ホームの場所は分かりますが、呼びに行かせましょうか?」

「今日はもう遅いし、明日で構わない。明朝一番でお願いできるかな。」

「承知しました。どういった依頼内容でしょうか?」

この場では、馬車の護衛と魔獣退治、他のハンターとの共闘が必須であると言うことだけを伝える。行先や報酬などの詳細は、直接会って話すという段取りだ。

「遅くにいきなり済まなかったな。明朝また来る。」

言い残して、ミドナリフフはハンター組合を後にする。

「私も行きたいです!」

ミドナリフフミキナリーノが朝食後すぐにハンター組合に向かうということで、カトナリエスが我儘を言う。

「今日はただの話し合いだ。遺跡を見てもいないカトナリエスにはつまらないだろう。」

ミドナリフフの言葉にカトナリエスはしょんぼりとするが、ミキナリーノに「次に遺跡に行くときは一緒に」と言われて目を輝かせる。ミドナリフフは余計なことを言うなとばかりに睨むがミキナリーノは知らん顔をする。

変なところばかり裕から学ぶものだ。

「突然呼び出して済まなかったな。私はフェザノス商会のミドナリフフ、君たちに指名での依頼をしたい。」

ハンター組合の応接室で、呼び出されてやってきた『春茨』の六人にミドナリフフが挨拶をする。

「護衛と伺ったのですが、どちらまで? 期間は何日くらいなのでしょうか?」

「期間はとりあえず七日から十日。報酬は一人金貨二枚。」

「なッ! 何ですかそれは!」

破格の報酬を提示され、リーダーオレオクジオは思わず大声を上げる。

「当然、ただの馬車の護衛ではない。行先も町ではない。少々、危険が伴う場所だ。」

ミドナリフフの言葉に、『春茨』は唾を飲み込む。

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