11話 ゴブリンは、殺す!

裕を見つけたゴブリンが裕に向かって走り出すと、裕は木を蹴って森の外へと向かう。

森の中では裕の重力遮断は効果が低い。枝に掴まったり、蹴ったりすることである程度は自由に動けてしまう。裕も重力完全遮断状態で木を蹴って進んでいるのだ。ゴブリンだって同じことができてしまう。

裕が森の外に出ると、そこには別のゴブリンの九匹と、それと相対している若いハンターらしき四人組がいた。

裕は構わず前のゴブリンの一団に突っ込み、すり抜け様に一匹を蹴り倒してそのまま駆け抜ける。四人組が驚いて振り向くと、二十を超えるゴブリンが迫っている。

四人組は青ざめて驚きの声を上げる。覚悟を決めると言うより、半ば自棄になって構えた次の瞬間、ゴブリンの集団がもんどり打って宙高く飛び上がる。

四人組の目の前のゴブリン達もギャーギャー叫びながら空中で暴れていた。

何が起きているのか理解できずに硬直している四人組を余所に、裕はゴブリンの落とした山刀を拾うと、四人組の目の前のゴブリン達にその刃を叩きつけて行く。

あっさりと八匹のゴブリンを倒し、裕は重力遮断を解除した。二十メートル以上まで浮かび上がっていたゴブリンの集団は地面に叩きつけられて、悲鳴を上げる。四人組は相変わらず固まったままである。

裕はゴブリンに止めを刺しながら、死体を一箇所に集めていく。気を失っているのか動かないものは、構わずに積み上げる。

そして、三十匹ものゴブリンを積み上げると、裕はそこに最大の出力で炎熱召喚魔法を放つ。その熱量は約二百キロワット。ドラム缶に入ったガソリンを燃やしているくらいに相当する。

それが酸素も燃料もなく持続するのだ。ゴブリンの死体は速やかに燃え上がる。

もうもうと立ち上る煙を見て、四人組が我に帰る。

「ちょっと! 何してるの!」

叫んで一人が燃えるゴブリンに駆け寄り、煙と火に巻かれる。

「何してるのって、こっちの台詞だよ! 危ないよ! 何してるのさ!」

裕は慌てて魔法を解除して叫び返す。だが、煙に咽せ、服を焦がしながらも離れようとしない。

魔法は消えても、既に燃えているものが鎮火するわけではない。炎こそ上がらないものの、大量の煙は出続けている。近くで煙を吸い続ければ命に関わる可能性も高い。裕は何度も戻るよう叫ぶが、一向に戻ろうとはしなかった。

「本当に何してるのですか? 死にたいのですか? 本当に死にますよ?」

裕は残る三人に言う。慌てて三人が駆け寄り、安全なところまで引き摺って行った。

「何で燃やすんだよ!」

四人組の中の一番年長であろう男が叫ぶ。年長と言っても、十三、四だろうか。幼さが残る顔立ちである。

「え? もしかして、あなた達はあれを食べるのですか?」

ゴブリンの死体を放置しても良い事など何も無い。すぐそこまで畑が広がっているのだから、焼却処分してしまうべきだろう。放っておけば死臭に引き付けられて肉食獣や魔物が寄ってきてしまう。

「食べるわけないだろ!」

三人は遠巻きに叫ぶ。つかみ掛かって来て欲しいわけでは無いが、裕には彼らの態度と言っている事がまるで分からない。

大きな溜息をつき、裕は改めて炎熱召喚魔法を放つ。

「その子、早めに神殿に連れて行った方が良いよ。」

そう言って、裕はゴブリンが落とした剣や槍、斧を回収し始める。木製の棍棒は、死体の山に投げ込んで一緒に燃やす。

ハンターらしき彼らは拾おうともしないのだ。きっと要らないのだろう。裕は落ちていた剣を一振り、槍を二本、斧を一本回収した。

そのまま放っておいて野火になっても困るので、ゴブリンの死体が燃え尽きるまで手近な木の枝に腰掛けて待つ事にした。

裕の炎熱召喚魔法は、敢えて消さなければ一時間くらいは効果を維持し続ける。これは、明かりや陽光召喚と同じである。基本的にこれらは全て同じ魔法なので当たり前なのだが。

待つのに飽きた裕は、斧で木を切り倒し始める。あまり大きくない木ならば、斧だけでも然程問題無く切り倒せる。さらに切り倒した木の枝を払って、丸太を得る。

四人組は地べたに座って、ゴブリンが燃え尽きていくのを黙って見ている。本当に何がしたいのだろうか、謎である。

治療魔法を使える者がいたようで、煙に巻かれていた一人は復活している。

魔法の効果が消えて暫くすると、ほぼ燃え尽きたようで、骨と灰ばかりとなっている。裕は先ほど落とした枝で残りカスを叩き、火を完全に消していく。

念入りに火を消した後、丸太に剣と斧の刃を食い込ませ、槍は手に持って町へと向かう。

そろそろ日が傾いてきている。急がなければ町の門が閉まってしまう。壁を飛び越えることは物理的には可能だが、見つかると犯罪者になってしまう可能性が高い。よほどの緊急事態でもない限り、裕はそんなことはするつもりは無かった。

裕は丸太に重力遮断魔法を掛けて少しずつ加速していく。畑の小径を走り、門の前に着く頃には日没まであと僅かだった。

裕は門の手前で丸太を地面に下ろして減速し、盛大に土煙をあげて止まる。

「何をやっとるか!」

門番に怒られる裕。

「もう閉めるぞ。」

「入ります! ちょっと待って下さい!」

急かす門番に、裕は慌てて身分証である商業組合の組合員証を出す。

「早くしろ。」

組合員証を裕に返して、門番は更に急かす。

裕が丸太を押して門に入ると、直ぐに門扉は閉じられた。

丸太と武器類を作業場に放り込み、井戸で手と顔を洗ってから、酒場に向かう。ほとんどの屋台は日没とともに撤収してしまう。完全に日が暮れてしまった今、もはや、営業している屋台はないだろう。

酒場もそう遅い時間まで開いているわけではない。午後十時、地球の時間感覚で言うと、午後九時過ぎには酒場も営業を終了する。

裕は酒場に入ると、シチューとパン、そしてビールを注文した。周囲から奇異な目で見られるが、そんな事は気にしない。飛んでくる野次も気にせずに、出てきた食事を食べ、ビールを飲む。

「おいガキ。ここはお前みてぇなチビッ子が来るところじゃねえんだよ!」

裕が食事をしていると、酔っ払いのオッサンが裕に絡んでくる。

「おや、そうなんですか? 食事もお酒も出てきましたけど。」

裕が大真面目に答えると、周囲は笑いに包まれる。注文を普通に受け付けている時点で、店側が裕を拒否などしていないことは明白である。

子ども相手に喧嘩を売るなとオッサンは仲間たちに引っ張られていった。

裕は食事を終え、ビールを飲み干すと酒場を出る。

尚、ここの酒場は注文の品が出てくる毎に精算が基本である。

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