078 習得! 条件を満たしました

「しかし、この剣スキルってのも微妙だな」

「ボタンを押すだけってわけにいかないからね」

メニューをタップして発動させることもできらしいが、所定のポーズを取って、そのスキルの動きをしようとすれば後は勝手に身体が動くということだ。

その仕組み上、どうしても発動前にが必要であり、その隙の大きさが問題なのだ。

「スキルの改造とかできないの?」

「剣スキルって改造できるんスか? って、合成できるじゃん!」

「え? マジ?」

改造じゃなくて合成らしい。カカオが表示されたヘルプテキストを読み上げたところ、一つのスキルを発動している最中に別のスキルに繋げることができるということだ。

「おいおい、魔法もくっつくぞこれ?」

「なんだって⁉ ︎」

試しに剣スキルに『炎の槍』をくっつけたら、魔法を放つと同時に切り込むようになった。

「ちょっと待って。なんでこれ誰もやってないの? 組み合わせ頑張って考えて調整したら、結構使えるんじゃない?」

「ルビーっスよ。これ、技術のルビーの効果っスよ!」

カカオは『炎の槍』も『クイックアタック』もクラン参加前から持っている。だが、今までスキルが合成できるとは全く知らなかったと言う。

「見落としていたってことはない?」

「これだけ分かりやすく合成って出てれば気付くっスよ」

技術のルビーは生産系の方が派手に見えるため、カカオはそちら用だと思っていて戦闘スキルを見直すことはしていなかったらしい。まあ、わたしも生産系のためだと思っていたしね。

途中でセコイアやヒイラギも合流して色々と試した結果、『パワースラッシュ』の初っぱなに『地雷』をくっつけて、斬りかかる途中で『クイックアタック』に切り替えるのが最も上手く機能しそうだった。

「他のスキルが増えたら検証するのが大変だね」

「一人でそれやり切るのは考えてないだろうな。自分のスタイル決めて、それに沿って発展させていく感じじゃないか?」

「そもそもスキル習得できないわたしはどうすりゃ良いのよ?」

皆さん盛り上がるが、わたしだけ一人蚊帳の外状態だ。セコイアもポプラも同じように剣スキルを習得できたのに、どういうわけか、わたしだけが一つも剣スキルを得られないのだ。

「スキルの習得は生産組にも試してもらおうよ。他にも習得できない人がいれば、条件もわかると思うし」

「わたし以外みんなできたら結構ショックなんですけど……」

セコイアの提案に反対するわけではないが、なんだか嫌な予感がするのだよ。結局、わたしだけが仲間外れという予感がね!

とりあえず戦闘組でスキルシートを複製コピーして、生産組に声をかけていく。

結果としては、アンズとクルミは普通にスキル取得ができて、サカキもヤナギも問題なし。そして、キキョウがわたしと同じく一つも剣スキルを習得できなかった。

「え? なんで私だけ?」

「わたしもだよぉぉ〜。仲間だよ〜〜」

「何で二人だけ? 共通点って何だ?」

「キャラ作成からずっと無傷」

「ま?」

カカオが驚いたような声をあげるが、わたしとキキョウ、そして伊藤さんは迷宮でダメージを一つも受けていない。

キキョウは、迷宮に行く前にわたしと出会ってパーティーに加わっている。他のみんなも、わたしとパーティーを組んでからずっと無傷のはずだが、ゲーム開始からということになれば無傷ではない。

確かにそこに差はあるが、スキル習得のためにダメージを受けるのはちょっと違う気がする。

「他になんかないのかな? 他のスキルが邪魔してるとか」

ヤナギがそう言うが、別にそんな変なスキルを持っているわけではない。わたしはともかく、キキョウの方はあまり変なプレイの仕方もしていないはずだ。試しに『蹴脚』などをオフにしてみたがやっぱりダメだった。

「もしかして、ステータスが足りてないとか?」

「ステータスが? レベルはわたしが一番上だよ?」

「前に割り振ってないって言ってなかったっけ?」

「あ、そういえば私もやってない」

「まさか、それか⁉ ︎」

キキョウもステータスに一ポイントも割り振っていないらしい。なるほど、意外なところに共通点があったようだ。

割り振れる項目はHP、膂力りょりょく敏捷びんしょう、生命力、魔力、感覚の六つだ。初期値は一千でレベルが上がるごとに三ずつ増える。レベルが三十三まで上がったところで、初期値からようやく一割増しになった程度だ。

それに対して、スキルポイントはレベルが一上がるごとに六もらえるらしい。現在、百九十二ポイントが貯まっている。

何に割り振るかだが、わたしは無傷チャレンジを続けるつもりなのでHPを増やす必要はどこにもない。HPの自動回復スピードに影響する生命力も今はいらない。

「この感覚ってどうなの? スキルの精度に影響するって書いてるけど生産系で何か変わってる?」

「あたしはここ最近、全部感覚に突っ込んでるけど、キキョウと何か変わってる気しないね」

ヤナギはキキョウが全く割り振っていないのを知っていて、だからこそ差がどう出るのか試していたらしい。とりあえず、それはその方向で続けてもらうことにする。

「剣スキルなら魔力はいらないのかな。普通に考えれば膂力りょりょく敏捷びんしょうだよね」

試しに『膂力りょりょく』に一ポイントだけ割り振ってみる。が、それだけでは剣スキルの習得はできなかった。さらに『敏捷びんしょう』にも一ポイントを入れてみたが、それでもダメだった。

最終的に『膂力りょりょく』と『敏捷びんしょう』に三ポイントずつ入れて、剣スキルの習得に成功した。

「やったぞ! わたしにも……、わたしにもできる!」

早速、スキルの合成も試してみて、パワー地雷クイックアタックをやってみる。

「身体が勝手に動くの、何か気持ち悪いね」

「そこは慣れるしかないんじゃねえか?」

そういうものと予想はしていたが、実際にやってみると自分の身体を自分で制御できないのはかなりの違和感がある。周囲に目を向ける自由もなくなるため、集団戦ではスキルの使用は向かないんじゃないかと思ったりもする。

そこまでできたところで、わたしは夕食の準備のために一度ログアウトする。他のみんなもそれぞれ夕食をとって十九時に再びみんなで集まることになる。

夕食は、昼に準備していた秋刀魚サンマだ。冷凍庫から出して凍ったまま魚焼きグリルに入れる。それが焼けるまでの間に味噌汁と副菜を作る。

鶏肉とピーマンとキャベツ、そして椎茸を細く刻み茹でたものに胡麻ダレをかける。味噌汁の具は豆腐にワカメ。漬物はいらない。

茹で野菜や味噌汁ができあがる頃には秋刀魚サンマも焼ける。ご飯は冷凍庫から出しておいたものを電子レンジで温めるだけだ。

美味しくいただき、後片付けを済ませたら再びゲームである!

ログインしたのは十九時ちょっと前だが、十九時で第一回武闘大会の予選を締め切り、本線が始まるとしきりにアナウンスされる。まあ、運営側としても、ここで誰も観客が来ないとかいう事態になってほしくはないだろう。

急いで闘技場に行ってみると、観客席は人で賑わっていた。モニターをみると、今も試合は行われている。わたしもやってみようかと受付にいくと、現在は大会のため一時エントリーできないようになっているようだった。

「勝者、アイウエオ! 本戦出場決定!」

十八時五十九分、ギリギリのところで酷い名前の人が予選突破した。

そのアナウンスにモニターを見ると、見覚えのある装備を身につけた男がガッツポーズをしていた。

「無傷装備⁉ ︎ ついにわたし以外にも出たか」

「ん? 無傷装備って何よ?」

「ゲーム開始から無傷でボスクリアしていたらゲットできる装備だよ」

思わず叫んでしまい、周囲の注目を集めてしまったが、二人目が出てきたならば隠していても仕方がないだろう。これからはもっと増えていくはずだ。

剣王の条件は知らないけれど、無傷の条件はレベルが高い人に助けてもらえば、割と誰でも達成可能なものだ。恐らく、リアルの友人にでも武器を貰ったりしながら達成したのだろうと思う。

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