072 鑑定! マジで欲しいんだけどさ……

サカキに匙を投げられてしまったので、錬金組に農業組、それに木工のカカオも呼んで話をすることにした。

情報の共有は大事だし、鑑定系スキルは彼らにとっても無関係のことでもないだろう。

「ということで、謎アイテムとか増えてきたので、鑑定アイテムとかスキルとか探してほしいわけよ」

「今のところ、それ系の情報は全然ないなあ。むしろ、謎でも何でもいいから色々集めてきた方が良いかも。溶鉱炉とか錬金溶媒で溶けるかの実験とかしてみたいし」

鑑定スキルがなくてもできることはあるとキキョウは言う。確かに、条件を満たす行為をすると得られるスキルは多い、というか魔法も含め私の知るスキルはそんなのばかりだ。

「少なくとも材料溶かしていれば溶融レベル上がるし、溶かす種類増やしたら別のスキルとかも生えるかもだからね」

「各工房の基礎スキル全部取ったら生えるスキルとかもあるかもっスよ」

「言い出しっぺ頑張れ!」

「マジっすか⁉ ︎」

そんなやりとりをしつつも、複数取れることが確定しているアイテムは各工房でできる調査をしていってみることとなる。

「あ、そうなると、木工工房で作ってもらいたい物があるんだけどさ、工房の燻製装置ってめちゃめちゃ低機能なのよ」

「つまり、燻製小屋がほしいってこと?」

「うん。木工工房のレシピに小屋シリーズあったでしょ? あれに燻製小屋もあったはずなのよ」

どうやら、カカオはやること盛り沢山なようだ。だが、その前に木を植えないと木材が得られない。

「あ、ひのきと杉とけやき、それにえのきかしはいくつか植えてあるよ!」

「質問! その種類って何が違うの?」

「めちゃめちゃ大雑把に言うと、杉やけやきは家屋用、ひのきえのきは家具用だな。で、くぬぎとかかしは木炭の材料として有名だな。木炭はオレが欲しいからリクエストしておいた」

ほんと良く知ってるな。サカキは「常識だろ」などと言うが私は木の種類別の用途なんて知らん!

「木を植えてあるのは良いけど、木工のレベルが足りないから、小屋はまだ無理っスよ」

「作れるのって何があるの?」

「基本、簡単な家具っすね。棚とかテーブルとか、あと梯子っスね。それに、木槌とか木刀も作れることになってるっス」

木槌はともかく、木刀は需要がないだろう。金属剣が普通にあるのに、わざわざ木刀を使う意味が全く分からない。

「あ、小さい木槌は欲しいかも」

「何に使う用?」

「草とか叩き潰す用。錬金術的には木槌と金鎚で効果が違うってのが一般的だし、たぶん、あった方が良いと思うのよ」

「じゃあ、今作れる中で欲しいもの作ったら、梯子量産して売ろうか。第一階層でも、高い位置の横穴はあるからね」

梯子に需要が全くないなんてことはないはずだ。売っていれば、高い位置に横穴があることも知れていくだろう。

値段はぼったくっても仕方がないので、取り敢えず百げーくらいで良いだろう。

「あと、欲しいのは胡桃くるみかな。ナッツオイル欲しいのよ」

「クルミ、絞られちゃう……」

「そっちのクルミちゃう! 胡桃くるみ違い面倒くさいな」

クルミはお約束のボケをかますが、わたしユズとヤナギ、カカオ、セコイアはこのゲームに用意されていない。

ともあれ、あっちもこっちもレベル上げが必要だということだ。

「まだまだ第三回層の探索が終わりそうもないし、しばらくは地道にやるしかないね」

「明日も頑張ってレベル上げすっか」

時計を見ると、もう二十三時半を回っている。零時まではもうちょっとあるけれど、迷宮に行って何かするには時間が足りない。

「わたしも今日は早めに上がるか。みんなCP入れるの忘れないでね」

家の拡張や農園ファーム湖畔レイクサイドの維持のためのCPは基本的に戦闘組持ちだ。生産組は、生産にCPを注ぎ込んでほしい。

どうせ、わたしたち戦闘組にはCPの使い道がないのだ。

「野村さんってなんのゲームやってるの?」

昼休みに唐突に聞いてきたのは同期の石川さんだ。

「ゲート・オブ・ラビリンスだよ」

「最近話題のフルダイブのやつ? あれって、面白いの?」

「わたしとしては面白いよ。ただ、運営メチャメチャ性格悪いから、合わない人は絶対合わないと思う。」

あのゲームは、変な罠というか、隠し要素の隠し方がとんでもなく悪質だ。未だにアイテムドロップの方法は知られていないみたいだし、隠し部屋があるということすら、情報サイトに出てもこない。

それは、発見者が秘密にしているというより、見つけられないのではないかと思う。

「野村さんってどのくらい進んでるの? レベル上げが大変って話は聞くんだけど」

「わたしは今、レベル三十だね。今、レベル三十が何人いるのかは知らないけどリミットがあるから、それ以上はいないはず」

階層ごとに上限レベルがあって、例えば第一階層ではレベル十以上になると、いくら敵を倒しても経験値が一つも入らなくなる。レベルを上げたければ次の階層に進まないといけないわけで、レベルが明らかに下の雑魚敵を蹴散らしながらのレベル上げはできないことになっている。

そして、今のところ、第三階層を突破したのはわたしたちだけだから、レベル三十を超えている人はいないはずだ。

「あのゲームを楽しめるは、たぶん、ゲームだと割り切れるかだと思う。マジな話、敵がさ、剣とか武器を振り回して襲いかかってくるわけだよ。ゲームだって分かってても、それで自分も剣持って戦うってメチャメチャ度胸いるわけよ。できない人ってやっぱりいるみたいだし」

「野村さんはできたんでしょ? 話を聞くと面白そうではあるのよね」

「割り切れれば面白いと思う。わたしもほんとに最初は、他の人が敵を踏み殺すの見てメッチャ引いたもん。ドン引きだよマジで」

生き物にしか見えないものを踏み潰そうとするのは、心理的な抵抗が大きい。そこを乗り越えられなければ、何一つ楽しくなんてないと思う。生産職もレベルを上げないとCPが低すぎて役に立たないし。

「ああああ! やっぱり気になる!」

「買っちゃえ買っちゃえ〜〜」

取り敢えず意味もなく煽っておく。ただし、職場の同僚をクランに招待するつもりはない。それは人間関係を悪化させる原因になりかねない。

他にも興味ありそうな人はいるみたいだし、そのうち同僚たちと闘技場でバトったりすることもあるかもしれない。まあ、ゲームを始めるのにわたしに一々報告する義務なんてないわけで、既にゲーム内で会っている人もいるかもしれないけれどね。

いつも通り、仕事は定時までに片付ける。残業なんてしない! わたしはゲームをするのだ!

帰宅すると急いで夕食の準備だ。ご飯はまとめて炊いて凍らせておいたものを解凍するだけ。冷凍餃子を焼き、ほうれん草の胡麻和えと豆腐と長ネギの味噌汁を手早く作る。

冷凍食品って楽ちんだよね! 下手に自分で作るより美味しいし、栄養だってある。

世の中には「塩分が」なんて言う人もいるけど、冷凍食品って当然だが冷凍保存をする。日持ちを良くするために塩分を多くする必要はどこにもないわけで、実際に塩分過多であるものは少ない。

食後はさっさと食器を片付けたら、軽く食後の体操をしてからログインである。時刻は十八時五十分。そろそろ伊藤さんもログインしてくる時間だ。

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