066 完成! 梯子があれば行けるところが増える
「うげえ! マジかよ!」
達成ボーナスの内容を確認していたサカキが一人で大声を上げる。そして、みんなの注目を集めて内容を説明した。
「追加レシピもらう工房をどれにするか、って今選ばなきゃならんのか?」
「特に期限はなさそうだな」
「じゃあ、後回しで良いんじゃないか? どうせ、材料とか足りねえだろ」
他のレシピゲット方法を見つけてからでも良いんじゃないかというのがツバキの意見だ。確かに、下位のアイテムもまだロクに作れていないのに、上位のレシピがあっても意味がないだろう。
「上位の、ならね。下位のレシピがあれだけ、なんて決まってないよ」
「いずれにしても、今のレシピを一通り作ってからでも良いんじゃないか?」
まだ作ったことのない物の方が多い現状では、新しいレシピはいらないというのも肯ける意見である。とにかく、現状ではどの工房のレシピにするか、その判断材料となる情報がなさすぎる。
一旦、保留にしておいた方が良いだろう。
「ところで、あの杉どうしよう? そろそろ伐ってもいいと思うんだけど」
アンズが言う『あの杉』とは、一週間くらい前に私が農園に植えた杉のことだ。日々ニョキニョキと伸びていて、現在の樹高は十メートルくらいになるらしい。
見にいってみると、かなりいい感じに育ってきている。梯子を作るだけなら、十分なサイズだろう。
「伐採用のノコギリなら作ってあるぞ。最下級だけど、小さめの杉を伐るくらいなら十分だろ」
なんと準備のいいことか。
ならば、早速木工工房に頑張ってもらいたい。親指で指してやると、サカキはインベントリからノコギリを取り出してカカオへと渡す。
みんなが見守るなか、早速、ギコギコとやってみるが結構時間がかかる。
従来のゲームのようにボタン一発十秒で伐採完了なんてことはないらしい。三分ほどかけて、やっと一本を伐り倒すことができた。
さらに枝を払って、やっと丸太になる。そこからさらに製材するのは時間がかかりそうだ。
「この切株ってどうするの?」
わたしの知るゲームでは、伐採後の切株は勝手に消滅する。だが、この杉の切株は消える気配を全く見せない。
「あ、それは消さなきゃ消えないと思う」
わたしが切株をつついていると、クルミがそう言ってパネルを操作する。切株が半透明になって消えていくと、何事もなかったかのように平らな地面が露出する。根の跡も何も残っていないのは便利なのだろうが、情緒に欠けるような気がする。
「その跡に何もないなら、切株なんて残さずにすぐに消えたって良いのに」
「切っても、また伸びてくる植物って結構あるから、プレイヤーが選択するようになってるんじゃないかな」
「もしかしたら接木もできるのかもしれないな。だとすると、勝手に消えられたら困る」
わたしが首を傾げると、即座に否定された。
ホウレンソウやキャベツだと一度収穫するとそれでおしまいだが、ニラやアスパラなどは一度切っても終わりではなく、また伸びてくるのだと言う。
「収穫しすぎると次の年に響くからな、いくらでもってわけにはいかねえけどな」
知らないよ!
わたしは家庭菜園もやったことない都会っ子だよ!
迂闊に農業系に口を出すものじゃなさそうだ。クルミとアンズは農学部らしいし、サカキに至っては現役の農家だ。そっち系の知識で勝てるはずもない。
それはそうと、問題はこれで梯子を作れるかだ。
「釘とかあるの?」
「そんなこともあろうかと、作ってあるぜ」
なんと準備のいいことか。流石はサカキ。デキる男である。
早速、木工工房で丸太の加工を始めてもらう。
「まず、製材っスか。鉋はこれを使えば良いんスかね?」
木工道具が並ぶ棚から取り出して、樹皮を剥くと生木が現れるが、剥いたカスは消えていく。なんとも奇妙な光景だ。
「なんか、樹皮を剥いているって言うより、木目模様を塗ってるみたいだな……」
サカキがぼそりというが、まさにそんな感じだ。カカオが手を動かすとどんどん丸太が塗り変わっていく。
さらに、五メートル長に切って角材をさらに切り出す。横の桁用にも切り出していけば、あとはトンカチ作業だ。
金槌ならば、鍛冶工房にもある。サカキとカカオの二人でガンガンと釘を打っていけば割と簡単に梯子はできた。
「よっしゃ、芋虫部屋行きますか!」
「芋虫部屋……?」
サカキは嫌そうに言うが、別に生産組は行かなくても構わない。どうせ第一階層だし、レベル上げにもならない可能性は高いからね。ただし、ツバキにヒイラギ、そしてポプラはだめだ。
特に、ポプラは『鏖殺』のスキルも取っていないだろうし、連れて行くのは確定だ。
「話の流れがよく分からんのだが、その芋虫部屋ってのは何なんだ?」
「芋虫三百匹いるんだけど、壁の上の方に通路っぽいのがあるんだよね。梯子待ちだった場所の一つだよ」
三百という狂った数を聞いてポプラが逃げ出そうとするが、そうはいかない。セコイアとふたりで肩をがっしと掴まえて引き摺るように連れていく。
芋虫部屋までは少々迷ったが、そう苦労するようなところでもない。狭い通路を通った先にそれはある。
「最初に範囲魔法叩き込んでおこうか」
「とりあえず、氷で良い?」
「OK」
ということで、みんなで『氷霜球』を詠唱し、一斉に投げこむ。その後の基本戦術はキックだ。五人で「オラァ! オラァ!」と叫びながら芋虫を蹴飛ばしまくる。
そして逆手に持った剣や槍で突き刺しまくれば、芋虫の数はどんどん減っていく。第一階層のザコ敵だし、少々の数は大した問題ではない。一分もすれば芋虫退治は粗方終わり、部屋の隅にいるやつらを潰していくのみとなる。
「で、通路ってどれだ?」
「いや、どれも見てないし。とりあえず、入口から時計回りに見て行こうよ」
ヒイラギが困ったように言うのも無理はない。芋虫部屋の壁には、八つの大きな横穴が開いているのだ。そのうちの一つだけが地面の高さ、つまりは入口なのだが、それ以外は三メートルから五メートルくらいの高さにある。
梯子をかけて登り横穴に入ってみると、結構奥まで続いている。
「あっちの方も深いね」
「こんなところ来る奴、他にいるのかよ?」
次々と上ってくるが、口から出る言葉は各人各様である。全員が上り終えると梯子は一旦インベントリにしまう。部屋に放置して、誰かに盗まれても困るし。
「誰も来ないと思うぞ……」
「あの芋虫部屋に挑戦しようって人、ユズくらいじゃないの?」
「キショすぎでしょあれ! こんなところに連れてくるなんて正気とは思えないわ!」
みんな随分と言いたい放題言ってくれるではないか。だけど、どう見たってここは通路だろう。第二階層のチビデブの巣のこともあるし、ここの奥にも何かあると思うべきだ。
「隠し扉あるかもしれないから、壁を叩いて進むよ」
「ここからさらに隠し扉かよ!」
そうはいっても、第二階層では、チビデブの巣のところは途中に隠し扉があったし、裏ボスに至っては隠し扉を二つ突破しなければ辿り着けないのだ。ここに隠し扉があっても不思議ではないだろう。
だが、ガンガンと叩いていっても隠し扉は見つからず、そのまま小部屋へと着いた。
「宝箱か」
「開けてみようぜ」
「いや、襲ってくるでしょ?」
以前に見つけた宝箱も襲いかかってきたし、警戒はしておくべきだろう。
「ツバキとヒイラギは盾構えて、すぐ抑え込めるよう横で待機。ポプラは後ろにまわって。セコイアは開ける係おねがい。開けたらわたしが突撃する」
四人が配置につき、セコイアは槍の先で突いて宝箱の留め具をはずす。と、案の定、勢いよくフタが跳ね上がって、変な奇声が発せられる。
「押さえろ!」
飛び跳ねようとした宝箱をツバキたちが盾でガッチリと押さえつけ、そこに私の渾身の突きが炸裂する。その一撃で宝箱のHPは尽き、中身を残して消えていった。