061 洗礼! 最初はみんな戸惑うもの
一人一殺した方が効率が良いということで、第二階層のボス部屋には一人づつ入る。
「ちょっと待って。アタシ、やったことないんだけど?」
「電撃一発で百パーセント気絶するから、落ち着いてやれば大丈夫。気絶したらヒレを切り落としてから止めを刺すの。剣はこれ使って」
初めてなら不安だろうが、実際のところ、ここのサメはザコだ。電撃で気絶させてから骸骨騎士の剣で攻撃すれば簡単に倒せる。
電撃の魔法が使えないというカカオにはセコイアの電撃杖と、やはり骸骨騎士の剣を与えておく。振るだけで電撃が飛んでいくのだから、普通にやれば勝てるだろう。
ということで、二人を送り出してやってからわたしたちも一人ずつボス部屋に入る。特筆するべきことは何もなく勝利し、戦利品を回収して第三階層の入口へと向かう。
予想通り、特に苦労することも無かったようで、カカオもポプラも階段のところで待っていた。
「どうだった?」
「なんであんなザコがボスなの?」
ひどい言われ方をしているサメだが、電撃なしでやればそれなりに強いとは思うよ。ただ、電撃で確実に気絶するからザコ臭くなってしまうだけだ。
「第三階層の敵はあんな簡単にいかないぞ。サメに余裕で勝って調子こいてたら、間違いなく殺られる」
「第二階層と違って、分かりやすい弱点はないからね。そして、予め言っておくと、第三階層は不意打ちとか挟み撃ちばかりだから」
わたしたちも油断していればやられる可能性がある。そこら中にある穴からクマが涌いて出てくるのだが、実際に見た方が早いだろう。
第三階層には向かうべき場所が幾つかある。
まず、ボス部屋。誰もが目指す第三階層のゴールだ。だが、現在のメンバーでボスであるケルベロスを倒すのは少々難しい。カカオとポプラには、もうちょっと強くなってもらわないとならない。
特に、カカオには魔法も覚えてもらわねばならないし、第三階層クリアはもうすこし先になるだろう。とりあえずはツバキたちの戦い方を見て、数人で連携する戦い方というものをおぼえていってもらおう。
盾を持たないポプラはわたしの戦い方を参考にしてもらう。いきなり二刀流なんてできはしないが、剣で相手の攻撃を弾き、受け流し、キックを叩き込むのは基本的な戦術としてできなければ話にならない。
「蹴るの? いや、闘技場でも蹴ったりしてるの見たけど、モンスターと戦うときもそれやるんだ?」
「普通、そう思うよな? 俺たちみんなそこは通ってるんだよ」
ポプラのぼやきにツバキが説明するが、分からんとばかりにポプラは肩を竦める。そういえば、今回は第一階層はツバキとヒイラギが盾でぶん殴って突き進んできたんだっけ。
今まではチビデブを蹴り殺して「剣だけでやろうとしちゃダメ」と言っていたのだが、今回はやるのを忘れていた。
「伊藤流は武器に拘らないのよ。無理にキックを狙いにいく必要はないけれど、機会があればパンチでもキックでもやっていくの」
剣士にとって剣とは主に使う武器であって、「剣は魂」とかとか言うのは剣に依存した軟弱な愚か者らしい。
そして、そんな雑談をしている間にもクマは涌いて出てくる。
「ほら、そこから出てくるよ」
セコイアが見つけたクマは、電撃を食らいながら穴から落っこちる。体勢を立て直す前に私がダッシュで駆け抜けながら切りつけ、さらにセコイアも続く。
クマがわたしたちに狙いを定めたところを、背後からツバキとヒイラギが強襲して一気にHPを削り切る。
一頭を倒すのに三十秒もかからない。いや、時間を掛けていられないからこそ多人数の利を活かして効率的に進めるのだ。
「また素材回収失敗か」
「なんか、クマの動き変わってない?」
「おれもそんな気がする。タイミングがちょっとズレてる」
クマの足首を切り落とすのは簡単ではない。わたしは伊藤さんと違って、一発で切り落とせる腕はないのだ。
「僕が先に行った方がやりやすいのかな?」
「次はそれで試してみよう」
クマはすぐに出てくるから、色々とやり方を変えて試していけば良い。何度かやって見せていれば、カカオとポプラも戦いの流れは分かるだろうし、できるところからやっていってもらう。
二人ともクマを見つけるのに手間取っているが、それもいずれ慣れるだろう。そして、わたしたちもクマの動きに慣れてきた。
「よっしゃ! 成功!」
「急いで倒せ!」
八頭目で左前足首を刎ね飛ばすことに成功し、全員で取り囲んでクマに切りつける。
「あれ? 消えない?」
「どいて!」
地面に転がるクマを蹴り飛ばして足を切りやすいよう伸ばし、剣を振り下ろす。数十秒以内にそれを三回やらなければならないのだ。悠長に説明している暇はない。
「どういうこと?」
インベントリに『アクマの爪』を仕舞うのを眺めながらポプラが口にした疑問文はあやふやなものだった。
「アイテムのドロップ、って言えば分かるか?」
「いや、ドロップなんてしたこと一度もないよ?」
「させないとドロップしないからな」
「次来るよ!」
説明の途中に新しくクマが涌いて出てくる。沸くまでの時間も変わっているようで、今までより少し早いような気がする。
「五十秒くらいだな。いままで六十秒くらいだったはずだが……」
「難易度さらに上げて大丈夫なのか? 進める奴いなくなっちまわねえか?」
「倒すのに十三から十五秒かかってるから、四十秒で回収すませてね」
今回も足首の切断に成功し、みんなでボコりながら認識合わせをする。クマが涌く間隔は一定ではない。いくつもある穴のどこから出てくるかも分からない。
その都度ランダムに変わるので早め早めに処理していかないといけないのだ。
「で、モンスターは素材が取れるやつもいるの。回収できる条件は一つ。生きているうちに一か所切り落とす」
「武器を奪うのはやっただろ? 同じことがモンスターの素材にもできる。こいつらは肝も取れるんだけど、取ってる時間がない」
伊藤さんがいれば、攻撃は任せてしまえるから私は回収に専念できるのだが、このメンバーだと私も攻撃に参加しないと時間内に終わらない可能性がある。
「なんでユズだけ? みんなでやった方がはやくない?」
「俺たちの剣じゃ切れねえんだよ」
セコイアたちの攻撃力は上がっているのだが、まだまだわたしの『無傷の勝利者』の優位性が失われるほどではない。何度やってみても、『骸骨将軍の剣』ではクマの足首を切り落とすことはできないのだ。
「ユズの剣ってそんなに凄いの? 攻撃力いくつ?」
「わたしの無傷の勝利者は攻撃力一千五百だよ。伊藤さんの剣は千八百だったかな。剣王の双翼とかって名前だったはず」
その次が第一階層裏ボスから奪える『骸骨将軍の剣』が八百なのだから、その攻撃力の高さは圧倒的と言えるだろう。そもそも『骸骨将軍の剣』ですらかなり強力で、第四階層のリザードマンの剣を上回っているくらいなのだ。
十何頭も狩っていれば二人とも戦いの流れも分かったようだし、戻って訓練場で色々やろうかとも思ったのだが、二人のレベル上げもしなきゃということで、今日は第三階層での狩りを続けることにした。
時々人が来るので、都度場所を変えつつ狩りを続けて日付が変わるころにお開きにする。三連休は今日で終わりだ。とても残念で憂鬱だが、明日からまた仕事なので、ゲームは止めて寝なければならないのだ。