055 惨敗! 索敵能力ってとても大事

昼食後、ログインしてみたが戦闘組は誰もログインしていなかった。ヒイラギはもうちょっとしたら来るだろうけれど、ツバキとセコイアの予定はもうちょっと先のはずだ。

一人で狩りに行っても効率が悪すぎるし、何をしよう?

何かすることあったよなと考えて、思いだした。弓の練習である。

「おおう⁉」

早速、訓練場のパネルを開いてみて思わず声が出た。クランホームの拡張をしたからか、訓練場のメニューが増えている。

個人訓練も対人訓練も、環境を選ぶことができるようになっているし、対人訓練には自由組手と試合形式の二つのモードが付いている。

環境は広い、狭いと言ったことに加えて足場の選択もできる。弓の練習ならば、広くて足場は平坦、的有りを選択すれば良いだろうか。

装備を弓矢に変更して入ってみると、三十メートル四方くらいの部屋で、奥の方に案山子や丸い的が並んでいる。

さっそく矢を番えて射ってみる。

が、矢は的に当たらないどころか、明後日の方向に飛んで地面に転がる。ちょっとまて。難しいぞこれ。

もう一本射ってみるが、今度は地面に激突して派手な音を立てる。続けて十本ほど射ってみたが、的にはかすりもしないとかそんなレベルじゃない。的に届きすらしていないんじゃ話にならない。

ちょっとこれ、伊藤さんに教えて貰わないと無理だよ。たぶん、弓や矢の持ち方から間違ってるんだと思う。だって、矢が真っ直ぐ飛んでいかないもの。

諦めて矢を回収して外に出ようかと思ったが、矢はどこにも転がっていなかった。腰に下げられた矢筒を確認してみると、との数がそのまま入っている。

矢筒をインベントリに仕舞うと矢の数が表示されるし、これは訓練場だからなのだろう。訓練場内ではアイテムに変化が起きないというのは、こういう所にも表れるのだろう。

岩場や砂場などに変えてみて試してみるが、個人訓練でこれはあまり意味がないかもしれない。一緒に訓練する相手がいなければ一人でするしかないが、基本的に、個人訓練はあまり効果が無いと思っている。

新しい武器や魔法の射程距離の確認には的があると便利だが、それくらいだ。

「訓練場って変わったんだね」

水中に設定した訓練場で溺れ死んで戻ったら、セコイアがログインしていた。

「岩場とかで試合やったら結構面白いかも。水中は戦い方が分からんですよ」

いきなり水の中からスタートだし、出方が分からなくて溺れ死んだのだ。不親切にも程があると思う。

「試合とかあるんだね。勝敗の記録とかつくのかな?」

「やってみる?」

「剣は普通のにしてほしいな。僕も電撃杖はなしでやるよ」

ということで、広めの岩場で試合をしてみることにした。入ってみると、大小の岩に段差もある斜面で、相手の姿が見えない。

とりあえず左手の斜面の上の方へと移動する。もちろん、魔法の詠唱をしながらだ。手を使って岩をよじ登ったりしていると、剣を握ることができないが、条件は向こうも似たような物だ。

先に見つけた方が有利になるはず。そう思って必死に探しながら斜面を登っていくが、セコイアの姿は見当たらない。

と思ったら、いきなり地面が爆発して吹っ飛ばされた。これは『地雷』の魔法だ。やばい、どこだ?

こっちはまだセコイアの位置も分かっていないというのに、これでは一方的にやられてしまう。

焦って探すが、さらに『地雷』に吹っ飛ばされる。火や氷、水の魔法ならば、飛んでくる方向で相手の位置も分かるのだが、地系の魔法は全く分からない。

もう、こうなったら当てずっぽうで攻撃するしかない。位置はおそらく、わたしより下の方。同じく『地雷』を放ってみるが、手応えは全くない。

だが、「見つけた!」と叫んで剣を抜き斜面を駆け下りる。引っかかってくれれば、飛び出してくると思ったのだが、吹っ飛んだのはわたしだった。

思った以上にセコイアは冷静だ。わたしのHPは残りもう僅かだ。あと一発食らったら死ぬだろう。

くっそぅ、これ剣とか全く関係ないじゃんよ。魔法だけで翻弄されてるよ。となれば、取れる手段は一つ。

ダッシュで逃げる!

魔法の射程距離はそれほど長くはない。射程外にまで逃げればセコイアも追ってくるだろう。わたしは詠唱を忘れてしまったが、回復魔法だってあるのだ。相手に時間を与えれば、ダメージは回復してしまうと考えるべきだ。

そして、予想通り、セコイアは追いかけてきた。隠れながらではあるが、その位置は把握できた。ならば、反撃だ!

セコイアの姿が岩陰に隠れた瞬間を狙って、折り返して走る。隠れるとかしている場合ではない。一気に距離を詰めてやる。

岩の上からセコイアを発見して飛び降りざまに切りつけるが、わたしの剣は盾で防がれてしまった。

ならばということで『電撃』を浴びせるも、今さらそんなことで怯んではくれない。少々HPを減らしただけで、セコイアはお構いなしに攻撃を繰り出してくる。

わたしもなんとか剣で攻撃を凌ぐが、そんなことをしていればわたしの負けなのは当たり前のことだった。

剣の攻撃の合間に放たれた『電撃』によってHPは尽き果て、わたしは一敗を記録してしまった。

「ぐやじい! ぐやじい! ぐやじい!」

「何やってんだよ……」

訓練場から出たわたしが膝をつき両手の拳で地面を殴っていると、呆れたようなヒイラギがそこにいた。

「だって、セコイアにボロ負けしたんだよ?」

「いや、たまたま僕が上手いこと見つけられただけだって」

「だからってあんな一方的に……!」

などと落ち込んでばかりもいられない。

「索敵ってどうやったら上達できると思う?」

「うお、突然立ち直った!」

「頑張って探すしかないと思うけど……」

そうはいっても、わたしは敵を見つけるのが遅い方だ。伊藤さんは特別としても、クマの奇襲に対応する速さはツバキやヒイラギの方が上だ。

というか、このパーティーで一番反応が遅いのがわたしだ。今回は、その差が明確に表れたのだと理解した方が良いだろう。

「伊藤さんに聞いてみるか……。弓の扱いも聞きたいしね。そういえばセコイアとヒイラギは弓ってできるの?」

「やったことないね」

「玩具で遊んだことはあるぞ」

まあ、ヒイラギも未経験者という括りで良いだろう。装備を変えて、みんなで自由組手に入ってみる。難易度を無駄に上げても仕方が無いので、地形は平坦を選択する。

「よし、じゃあ、わたしを射ってみろ!」

自由組手には的がないので、互いを的にすることになる。どうせ当たらないし問題ないだろう。

ヒイラギが番えた矢を放つと、数メートル先の地面に激突した。

「何でだよ⁉」

命中はしなくても、だいたい狙った方向に飛んで行くと思っていたのだろう。想定外の矢の飛び方にヒイラギは声を上げる。

「だから、当たらないってば」

「僕も良い?」

「どうぞどうぞ」

セコイアもチャレンジしてみるが、まったく、わたしにかする気配もない。

「意外と難しいんだね」

「スキルとか取れなかったら無理じゃねえか?」

「分わかんない。伊藤さんに教えてもらって、どれくらいできるようになるかだよ」

正しいフォームも何も分からない状態で練習しても無駄だということで、三人で第三階層に向かうことにした。

レベル上げやお金稼ぎということもあるが、そろそろマップも塗り潰してしまいたいのだ。

途中でツバキも加わり十六時過ぎにはマップの塗り潰しは一通り完了した。

「これで、心置きなく第四階層にと言いたいところだけど、隠し通路ってどうしよう?」

「クマが出てくる穴はいっぱいあるよね」

「いっぱいなんてレベルじゃねえだろ。千以上あるんじゃねえか?」

これは困った。とりあえず、明らかに怪しいオオカミ部屋は梯子ができたら行くとして、他はどうしよう?

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