053 入手! 工房付きの店舗
「じゃあ、裏ボス周回から行きますか」
「あたしも行って良い?」
ヤナギとキキョウは、今日中に目標額を達成して工房用の家を買う気満々のようだ。そのためにCPを温存しておき、その間にレベル上げをしておきたいということだ。
「まあ、良いんじゃない?」
「人数増えすぎるとボスきつくないか?」
「わたしは一人でやろうと思ってたし、二人分ならまあいいかなって」
何人で行っても、骸骨将軍は一体しかでてこない。本来なら、全員別々に周回できればいいのだが、みんなあまり自信が無さそうなので、三人ずつで行けば良いんじゃないかと思う。
チビデブを蹴散らして第一階層を突き進み、裏ボスの間にたどり着く。そこまでは別に何も苦労など無い。
「じゃあ、先に行くね」
パーティーを分けて、わたしはキキョウとヒイラギを連れて先に裏ボスの間に入る。
動く鎧の数はこちらの四倍。十二体の敵だが、そのうちの四体はキキョウとヒイラギに任せても大丈夫だ。
と思っていたら、左右三体ずつは剣を奪うことに成功したので、わたしが相手をするのは奥の六体だ。
といっても、そのうちの四体は動き出す前の撃破に成功した。ならば、残りは二体。それくらいなら、ぜんぜん余裕である。
キキョウとヒイラギが牽制している奴らは、背後から切りかかればそれこそ一瞬で終わりだし、何の問題もない。
そして、肝心の骸骨将軍は、キキョウとヒイラギが足下に投げつけた鎧に躓いている隙に蹴り倒し、三人でボコボコにして終わりだ。
「その剣強いよね」
「背後から一撃だし」
そう、強いのは武器であってわたしじゃない。千五百という圧倒的とも言える攻撃力にまかせているだけだ。
だからこそ、他の人の武器の強化が必要なのだ。
骸骨騎士から鎧を剥ぎ取って、撃破ボーナスの宝箱を開けて、その先の第二階層のボス部屋の前で暫し待つ。
「久しぶりにダメージ受けちゃったよ」
「勝てなくはないけどな。あの数を相手にするのキツイよな」
三人とも、第一階層ではすでにダメージを受けているので無傷記録には関係がないのが救いだが、あの程度は無傷で勝利できるように戦力強化が必要だと思う。
「まあ、次のサメは、あれだからね……」
「このまま三人ずつで行った方が良くないか? それとも一人ずつ行くか?」
六人で行けば、出るサメの数は三匹。一人ずつ行けば、六匹を倒すことになる。みんな電撃を使えるし、別々に行った方が、回収できる素材は多くなる。
「気絶させて、ヒレ切ってから止めを刺すだけだよね? 僕は一人で良いよ」
「私も大丈夫」
ということで、パーティーは一度解散してソロで行くことになった。弱点が分かっていれば本当に簡単だし、みんな何の問題もなく第三階層の入口に再び集まる。
「ここからが本番だな」
「張り切っていこうか!」
第三階層のクマは一分以内に倒さないと次が涌いてきてしまう。というのは逆に言えば、歩き回らずとも、その場で戦っているだけで一時間に六十匹を倒せるということでもある。
涌く時間がもっと早いところもあるが、さすがに三十秒に一匹のところでやる気はしない。そんな恐ろしい場所だと、集中力が切れたら一気に全滅させられてしまいかねない。
ということで、途中で何度か休憩を入れながらも三時間もかからずにで五百を超える『アクマの爪』を入手することに成功した。
はじめて第三階層にきたときはまるで勝てる気がしなかったのに、みんな、確実に強くなっている。
町に戻って『アクマの爪』を売れば四万Gになる。これだけあれば、お店付き工房も買えるだろう。
「あれ? 何か建ってるよ?」
なんか久しぶりに町に出ると、見慣れぬ建物がある。あのあたりはクランホームを建てられない工房街のはずだ。
「誰だろう? 何作ってるのかな?」
「っていうか、あれ、中身あるのか?」
ツバキのツッコミにみんなで首を傾げる。チビデブの巣は発見も撃破も難易度は然程高くないし、クリアした人が他にもいるかも知れない。
だが、鍛冶工房だけでは機能できないし、皮革や厨房だとまともに材料も見つかっていない。
「農園だけ始めたのかもしれないよ?」
セコイアの言うように、農園なら税務署で買えるし、比較的入手難易度は低い。湖畔と並んで、最初に始めるべき施設だ。
売る物を売って市役所の二階に行き、物件を探す。以前は工房専用を買うつもりだったからお店付きはわたしは全然見ていなかった。
「このデパートみたいなの買う奴いるのか?」
「八階建てって何売るんだよ。っていうか一億Gってバカじゃねえのか?」
「そんなのあるの⁉」
お店自体にはあまり興味が無いツバキたちは、イロモノを見つけてワイワイ騒いでいるがそちらはどうでもいい。ちなみに、クランホームにもお城みたいなのがある。
「一口にお店っていっても結構色々あるんだね」
「陳列スペース無しってどうなるの?」
「さっきの雑貨屋みたいなパネルで表示するだけじゃないの?」
キキョウもヤナギもそれはお気に召さないようで、陳列スペースがあるタイプの店を探している。予算は九万Gまでとなると選択肢は少ない。
二人が選んだのは、入口が大きめの、オレンジ色の謎建築のものだった。設置できる工房は二つ、お店のスペースはその価格帯では最大のものだ。
「じゃあ、ぽちっとな」
九万とんで八百Gを支払ってお店を買ったら、商業区画へぞろぞろと移動する。
建てる場所は決まっている。大通りに面して広場に一番近いところだ。ヤナギがパネルをぽちぽちやって、建物がにょきにょき出てくると、近くにいた人たちが野次馬にやってくる。
「家って地面から生えてくるのかよ」
「凄い色の店だな。何売るんだ?」
「どうやったら家買う金貯まるんだよ……」
なにやら色々聞こえてくるが、まあ気にしない。建物の中に入って、家のメニューを探す。
「こっちにあったぞ」
扉の奥の部屋を見に行っていたヒイラギから声が掛かり、そちらへ行ってみるとクランホームと同じような大きな水晶玉が壁に埋まっていた。
「ええと、ホームとの接続は……、これで良いのかな?」
ヤナギがパネルを操作していると、部屋の奥に扉が出現した。あれがホームに通じているのか。
「あ、権限設定は今やっちゃって。細かい設定はあとで考えるけど、赤の他人には触れないようにしておかないと」
「了解」
とりあえず、他人は立ち入りできないようにしておけば安心だ。一度外に出てオープンはまだ先だとだけ野次馬に言っておく。
「これが店か?」
こちらから行く前に、ホームの方からサカキがやってきた。扉を繋げたことで、ホーム側にもアナウンスがあったようだ。
「扉が増えるんだな。こっちはいくつ工房設置できるんだ?」
「二つ。何を設置しようか?」
とはいっても、湖畔と錬金工房を設置するのはほぼ確定事項だ。相談が必要なのは、残り一つの枠だ。皮革、織物、陶芸、そして厨房だが、どれも材料が無い。
「錬金工房はお店に設置すればいいの?」
「そうだね。農業でも鍛冶でも錬金が必要みたいだし、さっさと作っちゃおう」
錬金工房はキキョウとヤナギに任せて、わたしは農園にいるだろうアンズとクルミを呼びに行く。湖畔で育てられる作物もあるかもしれないし、二人にも声を掛けた方が良いだろう。
そして、倉庫から湖畔を取り出して、扉の前でぽちぽちと操作する。
魔法円が輝き扉が開くと、そこには緋色に染まる景色が広がっていた。
「何だこれ⁉」
「すげええええ!」
見ているうちに陽が昇り、湖にキラキラと反射してやたらと眩しい。
「確かに、何か植えれそうに見えるよね」
「ここなら何植える?」
「菖蒲とか蓮はこっちに植える用じゃない?」
アンズとクルミは当たり前のように話を進めるが、こっちは全然ついていけない。
「菖蒲ってお風呂に入れるやつ? 蓮って何するの?」
「蓮の根って書いてレンコンだろうが」
サカキは当たり前のようにいうが、そんなの知らないよ!