051 単独! 休憩時間の方が長い狩り

やってみよう、クマ狩りを!

意を決して第三階層にやってきた。初の第三階層ソロチャレンジだ。かなりドキドキだが、一対一ならば勝てるのは確かだ。

問題は、少しでも手間取ったら挟み撃ちされかねなく。素材回収にかけられる時間もほとんどないということだ。

だが、第二階層の人目がやたらとあるところで素材回収はできない。狩場を探しているふりをして通り過ぎながら他の人たちを確認してみたが、誰も素材回収をしている人はいなかった。

一般に知られていないなら、わざわざ広める必要はない。そうでなくても、ボスの攻略方法とか教えたりしているのだ。

岩の裂け目のような道を歩いていくと、岩陰からクマが飛び出してくる。だが、どんなところで出てくるのか、パターンは掴めている。飛び出てきたところをバッサリ切りつけてやるくらいはできる。

最初の一撃目で足首を切り飛ばすことができると、後がかなり楽になる。クマの攻撃頻度は当然下がるし、移動もスピードも落ちる。反撃させることなく、一方的に攻撃して勝てるくらいだ。

逆に、失敗すれば結構苦しい。一頭にかけることができる時間は最大で一分程度だ。場所によっては、もっと短い間隔で次から次へと涌いて出てくる。そうなってしまったら、もう負け決定みたいなものだ。

無事に一頭を倒すが、足首を切り落としている間に次が出てきてしまった。やっぱり一人で素材回収までやるのはキツイか。

二頭目も時間内に倒せはしたが、足首の切断には失敗。そしてすぐに三頭目がくる。

休む間もなく戦いが続くと、集中力が切れてくる。人間、そんなに長い間集中していられないのだ。だが、七頭目で幸運にも前足首の切断に成功した。その後、全力で攻撃を叩き込み、一頭目の足首を回収してダッシュで逃げる。

追加で八頭目が出てきていたが、追いかけてくるだろうか? 振り向くと、穴から出たクマがこちらに向かってきていた。

万全のクマは結構足が早い。逃げ回っていても逃げ切れそうになさそうだし、剣を構えて迎撃態勢に入る。

クマは後足で立ち上がり、両前足を振り上げて襲い掛かってくるが、これはバックステップしながら剣を振り上げれば対応できる。

振り下ろしてくる前足を目掛けて切り上げれば、かなりの確率で足首の切り落としに成功する。今回も上手くいき、クマは左前足を失う。

そうなれば後は簡単だ。首筋や喉を狙ってどんどん攻撃していけばそれで終わる。

右前足と後足首も斬り落として回収すると、第三階層の入口まで戻って休憩する。さすがに、第二階層からの階段のところにはあのクマは涌いて出てくることはないだろう。

だが、のんびりしていたら、別のが現れた。つまり、第二階層を突破した人たちだ。

弱点がまる分かりのあのサメはザコだからね。あの洞窟を突破できた時点でボス撃破はできるだろう。

「お疲れさまー。お先へどうぞ―」

「アンタは何してるんだ?」

「休憩中。さすがにソロだとめっちゃキッツい」

その後、パーティーに誘われたが、丁重にお断りした。第三階層は初めてだって言うし、パーティーにう《・》のはわたしじゃないはずだ。

「初めてならアドバイス。一匹に時間かけ過ぎたら負けるよ。同じ場所で一分戦っていたら、次の敵が涌くから」

「ご丁寧にどうも」

形式的な礼だけ言って、六人パーティは洞窟の奥へと消えて行った。果たして、彼らはあのクマに勝てるだろうか? そういえば、不意打ちしてくるって言うの忘れてたな。

数分の休憩を終えて再び狩りに行こうと思ったら、さっきの六人組が戻って来た。死にはしなくても、やはりキツかったか。

「めちゃめちゃ強くてビックリしたでしょ。第二階層のボスとか雑魚にしか思えないよね」

「俺が言うのも何だが、そういうのはもっと早く教えてくれないか?」

「ごめん、マジで忘れてた」

だが、「一分以内に倒せ」ってメチャメチャ大事な情報のはずだ。第三階層の敵が第二階層より強いなんて、ある意味当たり前なんだから、そこのところは優先順位が低くても良いと思う。

そんなことを言い争っても何の益もないので言わないけれど。

彼らに手を振って、わたしはひとりで洞窟の奥へと向かう。後ろから「マジでソロなのか」などと言っているのが聞こえるが、マジで一人だよ。

とはいっても、あまり奥の方に行くことはできないし、五分から十分に一度は休憩に戻らないとやってられない。狩の練習にはなっていると思うが、正直、お金稼ぎとしては効率がかなり悪い。

十五時まで頑張ってみたが『アクマの爪』は三十個しか手に入らなかった。

「お疲れー。どこでやってたの?」

「第三階層だよ」

「ソロで⁉ よくできるな……。おれは一人で行く気しないぞ。」

ヒイラギに感心されるが、自慢できるほど狩れてはいない。休憩時間の方が長かったんじゃないかというくらいだ。

「そんなことより、みんな注目!」

さっき、クランホームが拡張できることを発見したことを伝えると、みんな一様に驚きの声を上げる。やっぱり、わたしが見落としていたのではなかったらしい。

そして、さっきは無かった説明書きが増えている。それによると、第三、五、七、九にした時に工房の枠が一つ増えるらしい。ということは、なんにせよ、工房枠は一個足りなくなるってことか。

「で、ここにCPぶっこめば良いのか?」

「どうせ、使う予定ないでしょ?」

「確かに、戦闘班はCPって使わないよね……」

セコイアたちもCPは既に溢れているということで、百ずつ突っ込んでいく。

「これで一千三十五なわけだ。この拡張ってやっちゃって良いのか?」

「やっちゃえー!」

「GO! GO!」

みんなノリノリである。ツバキがぽちぽち操作していると、壁や床が光り、その形状を変え始めた。

左右の壁が外側に移動していき、途中に壁が生えてくる。階段は手摺すら無かったのが、簡素な手摺付きのものに変化し、二階の部屋も増えていた。

「次はCP千五百だとよ」

「えーと、仮に一人一日百二十入れると、四人で四百八十だから、あと四日後か。」

「伊藤さんも入れれば、三日あれば余裕じゃねえか?」

あまり伊藤さんは計算にいれたくないが、どうせ使ってないCPならあまり遠慮することもないか。工房が動きだせば伊藤さんにも装備品とか供給できるようになるだろうし、メリットはあるはずだ。

「で、家具とかいっぱい置けるようになったって事かな?」

「家自体はそうだね。倉庫も十枠広がってるはずだけど」

クランホームの倉庫は初期状態で百だ。一段階上がるごとに十ずつ増えて、最終的に百九十まで広がると説明には書かれている。その他にも、工房の枠を消費して百枠の倉庫を作ることもできるらしい。

「じゃあ、採掘行こうか」

倉庫から鶴嘴つるはしを取り出してヤナギとクルミに渡しておく。キキョウは『鍛冶屋のハンマー』で、アンズは『安物の斧』で採掘にチャレンジする。

鉄鉱石を採掘可能な場所は何か所か見つかっている。

みんなで第三階層にワープして、そのうちの一番近そうなところを目指して進んでいく。

ソロだと大変なクマ狩りも、複数人でやれば余裕だ。切り落とした足首の回収は生産組に任せておけば良いし、周囲の警戒はみんなでやれば一人ひとりの負担はとても少なくて済む。

ツバキとヒイラギも武器や盾の扱いが上手くなってきていて、危なげなくクマと戦うことができるようになっている。

だからといって調子に乗って油断しすぎないだけの冷静さがあるのが最高だ。

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