050 不審! 宝箱って絶対怪しいよ!

祭壇の部屋は、他には何もなかった。階段を下りて通路に戻り、他の道や部屋がないかを探す。

通路には扉らしきものはないが、上ってきた階段の横を通って、向こう側にも長々と続いている。その途中に扉はやはり見当たらないが、突き当りは丁字路になっていた。

左右どちらとも道幅は細くなり、しかも薄暗い。細いと言っても二メートルくらいの幅はあるのだが。それまでが六メートルくらいだから、一気に狭くなった感じがするのだ。

右側の通路に入ってみると、左右に扉がぽつぽつと並んでいる。だが、そのほとんどは固く閉ざされている。鍵が必要なのか、絶対に開かないオブジェなのかは分からない。

だが、進んでいくと、扉が開いている部屋があった。

恐る恐る中を覗いてみるが、暗くてよく見えない。中に入ってみると、長方形の石の台が幾つも並ぶ部屋だった。飾り気のない台は何の変哲もなく、何かが隠されているようにも見えない。

「ここ、死体安置所モルグなのかな?」

「死体は一つも無いね」

壁にも何も隠されておらず、収穫ゼロで部屋を出ることになった。その後、いくつかの部屋に入ることができたが、目ぼしいものは何もない。

「こっちはハズレなのかなあ?」

「可能性はなくもないね。さっきの魔道書を落とす奴だけでも収穫だと思うよ」

だが、諦めずに一つひとつ調べていってやっと見つけた。

「宝箱だよ!」

「こうしてみると胡散臭いね」

「罠でしょ。どう見ても」

半ば壊れたドアの隙間から入ってみると、部屋のど真ん中に宝箱がどどんと一つ置いてあった。十二畳くらいの部屋に宝箱一個しかないというのは、どう見たって怪しい。RPGではよくあるけど、実際に見ると怪しすぎて近づきたくないよ。

「セコイアは槍持ってるでしょ? あれで突いて開けられない?」

頑張って槍の穂先で留め具をつついて、何とか外してみる。と、案の定と言うべきか、蓋が一気に跳ね上がり、宝箱ごとバタバタ暴れはじめた。

「ヤバいヤバい!」

「逃げろーー!」

わたしたちは当たり前のようにダッシュで逃げる。宝箱は追いかけてきてドアに体当たりしてくるが、半分壊れた扉のくせに結構頑丈でビクともしない。まあ、たぶん、こいつは破壊不能オブジェクトなのだろう。

敵が外に出てこれないならば、やることは決まり切っている。『氷霜球』『電陣』などの魔法を叩き込みまくるだけだ。

四人で魔法を放り込みまくっていたら、中で暴れる音が聞こえなくなったが、それでも続けるのがわたしのやり方だ。

死んだふり大作戦などお見通しなのだよ!

「そろそろ大丈夫じゃない?」

音がしなくなってから三分ほど経って、キキョウが中を覗きこむ。わたしも覗いてみると、部屋の中は、何かが散乱していた。

改めて部屋の中に入ってみると、散らばっているのは箱の破片と、中に入っていたのだろうか、宝飾品が幾つか転がっているのを発見した。

「指輪にネックレスか。何か効果があるのかな?」

「石はガーネットにアメシストだって。あまり高くはなさそうだね」

インベントリに放り込めば名前が表示されるというのは便利だ。生産職系のキキョウとヤナギも宝石の鑑定スキルは持っていないようで、名前以上のことは分からないらしい。

その後も調べ回ってみたが、結局、他の部屋には何も見つけられなかった。収穫は魔道書に宝飾品だけだが、まあ、こんなものか。いきなりお宝ザクザクのウハウハ展開になることもないだろう。

元の通路に戻ると、階段を下りて蟻のひしめく洞窟へと戻る。敵の数が多く、ヤナギとキキョウのレベル上げにちょうど良いのだ。他の人もいないし、人目を気にせずバンバン狩れるというのも都合が良い。

蟻は一匹三十五Gの毒針が取れるだけだが、短時間で数を見込めるのだから割り切ることにする。

三百匹近くを狩って、ヤナギがレベル二十になったのは十二時半過ぎのことだった。

「わたしはお昼ご飯食べてくるよ」

「もう、そんな時間なのね」

「僕も一旦落ちるよ」

ということで、クランホームに帰り一度解散する。ログイン中は空腹感とかあまりなく、時間感覚があまりないが、時計を見れば現実リアルは既にお昼時である。

冷凍炒飯をフライパンで炒め、レタスをちぎってトマトを切ればお昼ご飯の完成である。所要時間、七分。うむ、手軽でよろしい。

ぱぱっと作ってもしゃもしゃ食べたら、食後の運動にちょっと散歩に出る。仮想空間の中では激しく運動をしているが、実際の肉体はずっと寝ている。意識して運動しないと、運動不足がヤバいことになりそうだ。

近所の公園で伊藤さんに教わった歩法の練習をしていると、何故か五歳くらいの子どもが隣で真似を始める。別に危ないことをしているわけでもないし、咎めることでもないだろうと気にしないでいたら、母親と思しき女性が近寄ってきた。

「ダンスの練習ですか?」

「初歩的な足運びだけですけどね。運動不足解消にはちょうど良いかなって。ずっと座ってる仕事だと、体がなまっちゃいますから」

武術だ、なんて説明してやる必要はない。VRゲームのせいで運動不足だなどと言う必要もない。胡乱な目を向けて、子どもをつれて去っていくが、不審者扱いされる謂れなどどこにもない。

帰宅したら、早速ログインである。

みんなが集まる十五時まで、あと一時間半ほどある。

何をしようかなと考えているときに、CPがだいぶ回復しているのに気づいた。溢れる前に突っ込んでおかないと。

百二十ほど突っ込んでやれば、しばらくは大丈夫だ。農園ファームの維持に必要なCPは一週間で三百で、湖畔レイクサイドは二百五十だから、現時点で既に次回分は足りているが、みんなのCPに余裕があるようなら拡大したい。

生産組はこちらに注ぎ込む余裕は無いだろうが、戦闘組はCPは余っているはずだ。一人一日百ずつ入れていれば、一週間で二千八百になる。伊藤さんも含めると三千五百だ。

現在貯まっているCPは既に七百を超えているし、少し拡大しても大丈夫だと思う。と思っていたら、画面の下の方に『ホームの拡大』なんてボタンがある。

試しに押してみると、画面が切り替わりホームの拡大の段階が表示される。

現在は第一段階で、十段階まで拡大することが可能らしい。肝心の、第二段階に拡大するのに必要なCPは一千、あと三百足らずだ。

これ、ツバキとヒイラギ来たらやってみようかな。それで工房の枠が増えるなら、お金稼ぎをそれほど頑張る必要もないし。

だが、工房枠は増えない可能性もある。クランに参加可能な人数が増えるとか、倉庫の容量が上がるとか、ホーム拡大で増えそうなものはいくつかある。

相も変わらず、情報が少なすぎる。運営に文句のメールを送っておかねば気が済まない。クランホームを買うときも、情報出せと言ったら出てきたのだから、言えば出てくる可能性はある。

いずれにしても、お金稼ぎ自体はしておいた方が良いだろう。

工房の枠は何とかなるかもしれないが、ホームを拡大してもお店のスペースはできないと思う。

どうせならお店の一つや二つは欲しいのだ。

誰か第三階層に一緒に行く人はいないかなとメンバーリストを開いてみるが、戦闘組は誰もいない。

生産組はサカキ以外は全員いるようだが、その面子だと第三階層は厳しいかもしれない。

ということで、第二階層の蟷螂エリアに行ってみたが、結構人がいる。さすがに一週間もあれば、攻略方法も出回るか。メニューから『記録』を見てみると、第一階層のボスの撃破回数は三桁に突入していた。

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