046 周回! それはゲームのお約束

「新しい武器奪ってきたぞ」

「ドロップしたと言いなさい」

奪ったというと、どうしても人聞きが良くない。これはドロップアイテムだ。ドロップと言ったらドロップなのだ!

とりあえず、サカキに槍を一本渡して、強化してもらうことにする。

「お、コイツはIランクなのか」

「Iランク? 何それ?」

「鍛冶スキルが無いと見れないんだけど、装備にはAからJまでのランクがあるみたいでな……」

今まで知らなかったのは装備やアイテムの説明にそんなことは書いていないからだ。サカキも『技術のルビー』で得たスキルで初めて知ったらしい。

「ちなみに、俺らの持っている殆どの武器はJだ。で、明らかに違うと思われるのはユズと伊藤さんの剣だ」

そして、私の『無傷の勝利者』を見てもらった結果、これはGランクだった。現時点ではとんでもない性能だが、そのうち大したことなくなるとゲームマスターが言っていたのはそういうことか。

「コイツらは数値的には六百九十か。第一階層の裏ボスって八百とかじゃなかったか?」

「ボス周回する?」

「した方が良いかもな」

「よし、行ってこよう!」

一回につき一セットしか奪えないが、それでも数値的には第四階層の敵と同等以上の剣と盾が手に入るのだ。

鎧も二個目を手に入れたら気兼ねなく溶かしてしまえるし、時間があれば周回するのも悪くはないだろう。

ということで、戦闘組の四人で第一階層にワープする。マップに裏ボスへのルートをマークしたままなので、道はすぐに分かる。ダッシュで向かって、隠し扉を開けてボスの間には二十分ほどで到着する。

動く鎧リビングアーマーの数は十六だね。動き出す前に倒せるだけ倒していこう。」

「剣は奪わないのか?」

「数が多いからね、減らす方を優先したい。こんなところでダメージくらいたくないしね」

「分かった」

作戦が決まればドアを開けて突撃だ。わたしに負けじと、三人も斧をぶん回して派手な音を上げながら手前の鎧からボコボコにしていく。

動きだすまでに倒せた数は九だが、わたしたちも大分強くなっている。残り七体が全部剣を持っていても何とでもなる。

ツバキとヒイラギはもちろん、セコイアも盾で相手の剣を弾く訓練はしているのだ。一人一殺で頑張れといっていた数日前とは動きが全然違う。

「よっしゃ、これで終わり!」

動く鎧リビングアーマーは特に問題なく倒し、ようやく本命の骸骨将軍だ。

伊藤さんは余裕で勝っていたので雑魚感が強いが、実際のところ、どれほどの強さなのだろう?

だが、わたしはそれを確かめるつもりも、正面から戦うつもりも毛頭ない。

「槍を出して!」

そう、槍を持つ三人で押さえつける大作戦だ。卑怯ではない、これは戦術だ。

わたしは、腕を押さえつけられて攻撃もロクにできない骸骨に向かって、後ろから斧で殴り飛ばす。

まず、剣を弾き飛ばしてやらないとね。

骸骨将軍が剣を落としたら、あとは容赦なく『無傷の勝利者』で連続攻撃を叩き込めばそれで終わりだ。面倒なので鎧の合体は待たない。

「身包み剥ぎ取れー!」

「どこの盗賊のお頭だよ、まったく……」

呆れたように抗議するが、ツバキは骸骨から鎧を脱がせてインベントリに仕舞っていく。最後に剣と盾を回収して、奥の小部屋で撃破ボーナスの宝箱を開ければ今日のノルマ完了だ。

「これ、一日に何回できるんだろう?」

「明日もやれば良いんじゃないか? それで三人分揃うし」

それもそうか、ということで帰ろうかと思ったけど、ついでに第二階層のボスもやっていく。撃破報酬とフカヒレあわせて三千四百Gの収入は結構大きい。

「どうする? このまま第三階層で狩り兼レベル上げやってく?」

「第四階層とどっちが楽かね?」

「そりゃあ、第三階層の方が楽じゃないの? 第四階層で戦えてたのは僕たちが強くなってるからだよ」

装備も地味に更新していってるし、補助的な戦闘スキルは取得していってる。そして、何より伊藤さんの指導はとても大きい。結構細かく分かりやすく教えてくれるのもあって、みんな確実にプレイヤースキルが上がっている。

どうせならマップを塗りつぶしていこうと、空白エリアに向かって進んでいくと、なんか叫んでいるような音が聞こえてきた。

「あれ? 誰かいる?」

「最近全然見てなかったけど、誰か、僕たち以外にも第二階層突破しているっぽいね」

セコイアに言われて見てみると、確かに第二階層の突破記録が六となっている。わたしが倒したのは確か三回。少なくともパーティー一つが、最大で三つが第二階層を突破しているということだ。

音が聞こえてくるのは、わたしたちの進む道の先からだ。わざわざ引き返してやる事もないだろうと進んでいくと、音はどんどん大きくなってきた。

ガンガンという衝撃音に何やら叫んでいる声、そしてモンスターの咆哮が混じって、ワンワンと反響しながら伝わってくる。

「苦戦しているみたいだね」

「あまりまとまった数は出なかったよな?」

「伊藤さんがいると、割とすぐ片付くからね。次がくる前に終わってただけじゃないかな?」

「確かにそれは言えてるな。終わった直後に背後から、とかもあっただろ。あれ、伊藤さんが正面の敵を瞬殺していなかったら、挟み撃ちになってるのか」

改めて考えると、第三階層はかなり厄介だ。剣はやっぱり『無傷の勝利者』にしておこう。

奇襲に気を付けながら音の聞こえる方に進んでいくと、クマに囲まれた人たちを見つけた。

「おーい、手助けはいるかい?」

一応、声をかけてみる。モンスターの横取りはマナー違反だ。助けが不要だというなら、戻って別ルートを行くしかない。まだ行ったことのない分岐点まで戻るのに数分かかるが仕方がない。

「助けてくれ! こいつら、どんどん増えるんだ!」

余計な心配する必要はなく、むしろ助けを求めてきた。やっぱりと言えばやっぱりか。さて、クマが出てくるのは何処だ?

「ツバキとヒイラギは背後を警戒! セコイアは氷の魔法で動き止めて」

「了解!」

二人は盾を構えてすぐに動き始める。わたしは左手の剣を鞘に納めて壁をよじ登り氷の魔法を詠唱する。

パーティを挟んだ手前側のクマはこちらに背を向けたままだ。それを狙おうと思ったが、奥の壁の上から、新たにクマが顔を出したのが見えた。本当によく湧くクマだ。

壁のクマに向けて『氷の槍』を撃ったのを合図に、セコイアも手前のクマに『氷霜球』を叩き込む。凍りつき、一瞬動きが止まったクマに向かって飛び降り様に斬りつける。返す刀でもう一発!

トドメの突きで、まず一頭目のHPバーは赤に染まる。動き始めたクマが振り返る前にもう一頭に切りかかる。「オラオラ!」と叫びながら連続切りを決めて反撃される前に沈める。わたしも連続攻撃の型は一つ覚えたのだ。

あと二頭! 向こう側には五頭くらいいたけど、それは知らん!

巨大な爪を振り回しての攻撃を後ろに下がって躱して、振り抜かれた前足に斬りつける。ザックリと刃が肉に埋まったことに驚いたが、すぐに足首の先が素材だと思い出した。力一杯振り抜くと、クマの足首が地面に落ちる。

その横から迫るもう一匹に、セコイアの放った『氷の槍』が突き刺さり、追い討ちとばかりにツバキとヒイラギからも『氷の槍』が飛んでくる。

「ナイスフォロー!」

超助かったよ!

目の前のクマの顔面に剣を突き立て、さらに左の剣を抜いて斬りつける。

これで三頭目! ラストくたばれ!

氷から開放されて動き始めたクマに二本の剣を突き刺す。わたしに向かってこようとするクマに対し、後ろに下がりながら突きを連続で喰らわせると、あっさりHPはゼロになった。

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