041 発表! 記念すべき第一回イベント

『サービスインから一週間を記念して、第一回武闘大会を開催いたします。詳細は闘技場の案内所をご確認ください』

唐突にアナウンスが流れる。そろそろ何かイベントはあるかと思っていたが、闘技場がオープンしたということで早速大会が始まるのか。

案内所で説明を見ると、予選として一週間あり本戦は来週の土日に行うということだ。

「一週間以内に一対一で十勝?」

「参加者、そんなにいるのかなあ?」

今は案内所周辺に人が集まってきているが、先ほどの状況を見る限り、そんなに参加者がいるようには思えない。伊藤さんとか張り切り過ぎたら参加者がいなくなってしまうかもしれない。

だって、どう考えたってに勝つのは無理だよ? 少なくとも、わたしじゃ勝てない。

「もう、受付は開始してるんだね」

「さっきのはカウントされていないか……」

タイミングミスったな。もう一回やっていくか、どうしよう?

「じゃあ、僕もやってみるよ」

パネルを操作すると、すぐにセコイアの姿が消えた。すぐに始まるのか不安があったが意外と参加者はいるようで、十個のモニタは全部が稼働しはじめた。

セコイアは七番モニタだ。

相手は魔法使いのようだが、恐らく現時点では魔法という点ではセコイアが最強の使い手だ。レベルが二十を超えているのはわたしたちしかいないし、耐性を持っているのもわたしたちだけではないだろうか。

案の定と言うか、相手が使った魔法は『炎の槍』。セコイアは避けようともせずに電撃杖を振り、さらに『風の刃』を放つ。これはセコイアが負ける要素が無い。レベルは相手を上回っているだろうし、相手の攻撃の炎の魔法に対して耐性レベル二を持っている。

しかも、電撃杖での追加攻撃が可能なのだから、時間当たりの与ダメージに開きがあるのは当然だろう。

足を止めて魔法を撃ちあっていれば、その差を覆すことは不可能だ。勝つ気があるならば、魔法を避けるべく必死に走り回るべきだ。

案の定、セコイアがHPを三分の一ほど減らしたところで相手のHPは尽きた。

「相性が悪いとどうにもならなさそうだな」

「現時点では純粋な魔法使いは分が悪いよ。魔法使いと剣士が決闘形式で正面からやりあったら、十中八九、剣士が勝つと思う」

魔法使いが剣士に勝つには、立地的な有利を取るしかないと思う。高低差も身を隠す場所も無い草原で決闘して勝ち目があるように思えない。実際に、モニタに映る他の人たちの戦いを見ても、魔法使いの恰好をした人たちで優勢に戦っているものはない。

「でも、魔法って防ぐ方法は無いのかしらね? あの範囲型を避けるのは難しそうだわ」

「伊藤さんなら無視して突っ込めば勝てると思うけど」

「あら、無傷で勝てばボーナスがあるんじゃなかったの?」

考えていなかったけど、それはあるかも知れない。となると、魔法を防ぐ手段が必要になるのか。

「帰って色々試してみようか」

「あたしは一戦やっていくね。自分がどれくらい戦えるのか知りたいし」

そう言って、ヤナギは受付に向かっていった。戦闘組じゃない彼女がどの程度戦えるのかは確かに興味がある。場合によっては今後の訓練をどうするかも考えなきゃならない。

五番モニタに映された景色はゴツゴツとした岩場だった。相手は盾を持った剣士で、セコイア曰く、相性的に勝ち目の薄いタイプだ。

一発の『電撃』は相手に命中するが、それで怯むことなく剣士はヤナギとの距離を一気に詰めていく。だが、ヤナギも右手に剣を持って必死に相手の攻撃を弾く。

そして、合間合間に電撃を飛ばして確実にダメージを与えていく。

「結構いけているんじゃない?」

「剣での攻撃を諦めて防御に特化している分だけ相手は攻めづらいんでしょうね」

なるほど。そして相手はヤナギの魔法を防ぐ手段を持っていない。電撃は盾では防ぐことはできないのは確認済みだ。確実にHPを減らしていくのは剣士の方だった。

戦っている本人もそれに気づいているのだろう。焦っているのか段々動きが乱れてくる。そうなれば益々ヤナギが優勢になっていく。

剣で防ぎ、魔法で削るというスタイルを見せつけて、ヤナギの完全勝利となるまでそう時間はかからなかった。

「今のヤナギの戦い方、絶対マネされるね」

「だね。みんなアレになるかも」

「ごめん、マズかった? もう少し隠していたほうが良かったかな?」

「謝ることないわ。少しは強くなってくれないとつまらないもの」

伊藤さんは発想が完全に強者、というより王者だ。ただし、勘違いしてはいけない。伊藤さんは自分が負けるつもりはこれっぽちもない。

「じゃあ、ホームに帰って訓練しようか」

私が闘技場の出口に向かおうとしたら、伊藤さんが忽然と姿を消した。

「あ、あれ? 伊藤さんどうしたの?」

「何かメニュー開いてたよ?」

ログアウトしたってことも無いだろうし……

「もしかして、帰還の水晶って闘技場ここでも使えるの?」

「そうかも……」

試しに使ってみたら、クランホームに帰還ワープできた。迷宮外でも効果あったのね……

早速訓練場に入ると、伊藤さんは「魔法を斬ってみたい」とか言いだした。いくら伊藤さんでもそれは無理があるんじゃないかと思う。わたしも前に『氷の槍』を斬ろうとして剣ごと氷漬けにされて諦めたことがある。

伊藤さんもセコイアが放った『氷の槍』に切りかかってみるが、やはり剣が氷漬けにされるだけだった。

ただし、わたしと違って伊藤さんはノーダメージだった。氷が剣から伝ってくる前に手を放してしまうことでダメージを回避したのだ。

「こうすれば魔法を防げなくはないのね……」

「単体魔法なら避けた方が良いんじゃないかな。範囲魔法は斬ったらどうなるんだろう?」

結論。

同じように剣が氷漬けになった。しかも、魔法が発動してダメージも受ける始末だ。

「じゃあ、剣を投げれば良いのかしら?」

伊藤さんの流派には、剣に対する誇りとかそういうのは無いようだ。当たり前のように剣を手放すし、投げつける。騎士道とか武士道なんてのを重んじる人からは酷い邪道のように見えるだろう。

やってみれば、これは上手くいった。ダガーを投げつけるのでも魔法を潰せるようで、上手く魔法を放つ瞬間を狙えば自爆させることも可能かもしれない。

単体と範囲魔法を織り交ぜて投げてもらい、それを迎撃する伊藤さんの様子を見ながら、同じような練習をするべきかと考えていたが、伊藤さんの言葉で練習することは確定した。

「何かスキルを習得したわ」

「どんな?」

「魔法斬、魔法を斬るって書いてる」

な、なんだってーーーーー!

習得条件なんだ? 魔法を剣でブッ叩けば良いのか?

やってみなければ分からないなら、やってみれば良い。

凍らされてもめげずに『氷の槍』に斬りかかっていたら、わたしも習得できた。

「よっしゃ! みんなこのスキル取ろう!」

習得条件さえ分かってしまえば、みんなが習得するまでそう時間はかからない。

そして、伊藤さん含めてみんなで魔法を斬る練習である。スキルの説明によると、斬れる魔法は攻撃魔法のみで、属性は関係が無いらしい。

そして、百パーセント確実にできるわけではない。条件は書いていないので不明だが、斬れるときと斬れないときがある。

氷漬けになったり火達磨になったりしながらの練習だが、意外と楽しい。

いや、今までで一番楽しいかもしれない。

上手く魔法を切り飛ばせた時が快感なのだ。難易度がそこそこ高いからこそ燃えるというものだ。

二十一時まで練習して、上達が一番早いのは予想通り伊藤さんだったが、二番手に付けたのは意外とキキョウだった。

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