038 歓喜! 農園は想像以上に広かった
第三階層ボス撃破ボーナスは、わたしとセコイアが『無傷の輝き』という杖。ついにセコイアも無傷シリーズを手にすることになったようだ。
伊藤さんはもちろんと言うべきか剣王シリーズ、その名も『剣王のガントレット』だ。そして、ツバキとヒイラギは『氷結杖』に『火炎杖』という結果だった。
何でそうなるのか? と思ったけど、直近の行動パターンや取得したスキルに依存するのだろう。そういえば昨日はずっと魔法を頑張ってたし、その影響はあるのかもしれない。
そして、宝石系は『技術のルビー』だ。第一階層が『帰還の水晶』、第二階層が『転移のエメラルド』となっているのだろうから、次は何だろうと気になっていたのだ。
えーと、効果は、スキル欄が拡張される?
って、うおおおお!
いっぱい出た! スキル一覧が出た!
戦闘系に生産系もある。中には書かれている習得条件を満たしているものもある。試してみると鍛冶初級を手に入れた。
ってことは、もしかして生産職も第三階層はクリアしないとダメなのだろうか? なんて面倒な。
「そろそろ終わる時間ね」
「まってまって、第四階層に下りてから!」
私がメニューをぴこぴこしていると、伊藤さんは時計を見てさっさと戻ろうとする。だがそれはダメだ。第四階層に足を踏み入れないと直接ワープができない。慌てて止める。
階段を下りていき、第四階層に着くと、そこは水浸しの湿地帯のようなエリアだった。そこに一歩だけ入ってから水晶を使って帰還する。
『第三階層が突破されましたので、闘技場およびファーム機能が解放いたします』
わたしたちがホームに帰ってきたところにタイミングを合わせたかのようにアナウンスが流れた。
「へえ、闘技場? 強い人っているのかしら? 明日が楽しみね」
それだけ言い残して伊藤さんはログアウトしていった。興味があっても、自分のルールは曲げない辺りが伊藤さんらしい。
でもたぶん、伊藤さんが期待するような人はいないと思う。
「農園ぅぅぅ!」
叫びながらアンズとクルミが鍛冶工房から飛び出してくる。
「餅搗け。どっちの扉から繋げる?」
尋ねながら、わたしは倉庫の扉を開け、農園を取り出す。これまでグレー表示の使用不能状態になっていた農園は色を取り戻し、ちゃんと使用可能となっている。これでまたバグったら怒るぞ。
「じゃあ、こっちで」
二人が示したのは左奥の扉だ。まあ、実際のところ、どこでも変わらないんだろうけどね。選ぶのは気分の問題だ。
「それじゃあ、いくよー」
メニューからインベントリを開いて農園を使い、扉に触れると魔法円が扉に浮かんでカッと強い光を放った。そして、扉は自動的に開いていく。
「え? これだけ? もう良いの?」
「終わったみたい。位置づけ的には工房と同じみたいだね」
どきどきわくわくしながら扉を開けて入ってみると、いや、扉から出てみるとそこは広々とした原っぱだった。
柵で区切られた、わたしたちの農園の広さは結構ある。一辺の長さは百メートルくらいはありそうだ。
「ひろーい」
「家庭菜園のレベルじゃないね!」
ええと、一辺百メートルって一ヘクタールだよね。えっと、平米だと一万だよ! すげえ!
「何植える?」
「種とか苗は何処で手に入れるんだろう?」
「家畜は? 牛は厳しいけど山羊なら飼える広さだよ!」
アンズとクルミは興奮しっぱなしだ。水を差すのも何だし、二人は放っておいて、わたしは改めて周囲を確認する。
木製に見える木の柵がぐるりと囲んでいるが、実際にはこれは柵ではなく壁になっている。手を伸ばしてみると、何もない空間にぶつかるのだ。
扉の向かって直ぐ右隣には棚があり、左側には自販機のような謎の物体がある。
棚の中には剣先スコップが一つ。そして薄い冊子が三つあった。
「農具は鍛冶で作るのか」
「肥料は錬金だって」
「木工もあるよ。これは家畜小屋か」
ならば、次は錬金工房か。だけど、材料はどうするんだ? そういえば、ゲームマスターが湖畔で錬金の材料調達できるとか言っていたような……。
いやいや、考えるのは後だ。まずは確認だろう。
自販機っぽいのは本当に販売機で、植物の種子を売っていた。麦などの穀物に、キャベツのような葉っぱモノ、トマトやナスもあるし、リンゴやクリのような木もある。かと思ったら、完全に木材用と思われる樫や杉なんてのもある。
「おーい、アンズ、クルミ! 種子はこれで買えるみたいだよ。とりあえず何植えるかは二人で決めて」
アンズとクルミは喜んで見にくるが、サカキは不安を口にする。
「このスコップだけで、この広さを二人で耕すとかありえねえだろ。農具は急いで作った方が良さそうだな」
「用意する必要があるのは確かだけど、作るかは闘技場に行ってからだね」
「闘技場? 何でだ?」
「闘技場って言ったら、景品じゃない?」
「ああ、農具がすぐに取れるなら、作らなくて良いってことか」
まあ、景品自体あるかどうか分からないし、生産関連の景品があるかはさらに確率が低いかもしれない。だが、確認する前に作り始めることもないだろう。
「じゃあ、闘技場に行ってみましょうか」
「賛成!」
ということで、みんなで闘技場に行く。神殿前広場から少し北に行ったところにそれはある。
機能解放されたばかりだが、アナウンスがあったからだろう、結構な人数が集まってきていた。
闘技場の外観はローマのコロッセウムのような古代の様式なのに、中はやたらと先進的だ。
入口から見て左手に受付があり、正面には大型のモニタがいくつも設置され、その手前には観客用のソファやテーブルが並んでいる。
「早速、やってる奴がいるんだな」
左端のモニタには剣士の格好の二人が戦っているのが映し出されている。伊藤さんと比較してはいけないと分かっていても、動きが素人臭い。
「みんなに見られるのは恥ずかしいなあ」
「っていうか、手の内バレバレになっちゃうじゃん」
「オレはバレて困る手の内なんてないよ……」
各人、感想はそれぞれあるが、今は他人の戦いを見に来たのではない。ここで何ができるかの確認が先だ。受付に行くと、闘技場メニューのパネルが表示される。
さて、景品はあるのかな?
メニュー個人戦に、団体戦、記録、戦積、そしてメダル交換がある。お、これが例のボスクリアのメダルだろうか。
開いてみると、メダルで交換できるものが一覧で表示される。上には、現在持っているメダルの数も表示されていた。
わたしの現在のメダル数は十八。たぶん、現在の最多所持数だ。
交換できるアイテムは装備品に消耗品、スキル、その他とカテゴリ分けされている。消耗品は回復薬やバフ用の薬だ。これは、今はいらない。
スキルには魔法や武器スキルが並んでいる。ハイジャンプするスキルとかあるなら欲しいかもしれない。
そして、その他は雑多なものが並んでいる。机や椅子などの家具に、鍛冶や裁縫用の道具、レシピ集、そして、湖畔。
「うおおお! 湖畔だ! こんなところにあったよ!」
「トラクターだ! これ欲しい!」
わたしが歓喜する横で、アンズとクルミがはしゃいだ声を上げる。湖畔のメダルは五十枚。みんな十枚くらいは持っているはずだから、余裕でゲットできる。
小型トラクターは十五枚だ。超大型のトラクターなんてのもあるが、それは今はいらないだろう。
「三枚足りない……」
歓喜していたアンズとクルミは今度は絶望に咽び泣く。二人合わせてもメダルは十二枚しかないらしい。
「しかたないわね……」
そこに救いの手を差し伸べたのはキキョウだった。
インベントリから取り出した三枚のメダルを差し出すと、二人の口から歓喜と称賛の言葉が溢れだす。
「おいおい、トラクターなんて引き換えしてどうするんだよ?」
これだけ騒いでいれば、横から突っ込みも入るというものだ。ほとんどの人は農園の取得はまだまだ先だろうから、そんなものだろう。
「どうって、畑を耕したり、肥料や農薬を撒けるって書いてありますよ?」
クルミは大真面目に答える。
あの広さの畑を見てしまうと、トラクターが欲しくなるのは道理というものだ。一ヘクタールをスコップ一本で耕すとか、どれだけ時間がかかるか分からない。だが、そんなことは農園を見たことがなければ分からないだろう。