033 探索! あらためて第一階層だ
「さて、これからどうしようか?」
伊藤さんがログアウトすると、わたしたちのやることは第一階層か第二階層に限られる。第三階層はわたしたちにはまだ早すぎる。
「オレは鍛冶やっていていいか? 材料も結構あるし」
サカキはもともと職人志望である。あまりにもレベルが低いのも考えものだが、早くみんなの装備を強化したいとも思う。そして、先ほどチビデブの巣で大量に剣やナイフ、斧などを仕入れてきている。名称に『安物』とかついているだけあって、性能は大したことがないので、溶かして新しい武器の材料にするだけだ。
「良いんじゃないか? ユズや伊藤さんのみたいなのは無理でも、もうちょっとマシな武器は欲しいし……」
「そういえばハシゴが欲しいんだけど、木工やる人いない?」
「ハシゴなんて何に使うんだ?」
「通路っぽいのがちょっと高いところにあったりするのよ。第三階層のクマの穴の奥に何かないかも気になるし」
「じゃあ、私やりまーす!」
名乗り出たのはヤナギだった。木工は弓も作れる可能性があるということで、その点でも気になっていたらしい。
木工工房を倉庫から出して。鍛冶の隣の扉にセットする。効果音と光とともに完了すると、自動的に扉が開いた。
部屋の広さは、鍛冶工房と同じくらいで、部屋の中央に作業台、それを挟むように工具が置かれた棚がある。部屋の奥にはやはり机があり、レシピ集が置かれている。
「そういえば、材料は?」
「無いね……」
ぬぐあああああ! やっちまった! 木材を入手するには農園が必要なのか!
「第三階層のクリアは急がないとだね……」
「無限ループじゃん! クリアするには武器がほしくて、そのためには探索が必要で、そのためにはハシゴが……」
「いやいや、まだ行ったことない所ってないか?」
クランホームにはこういう時に便利な機能がある。メンバーのマップを合成して埋めていくことはもちろん、マップの消去もできる。
全員のマップを重ねてみれば、未踏領域は一目瞭然となる。第一階層は左下と右上に、第二階層は左右の端全般だ。
そういえば、壁の調査とか全然していなかったな。もしかしたら、他にも横穴はあるかもしれない。
「それと、第二階層の池だね」
「絶対何かあるよね。ゲームマスターが態々行っていないことを指摘してたし」
だが、第二階層は後回しだ。裏ボスの洞窟のように、レベルが全然違うモンスターが配置されていたらどうにもならない。赤い鎧は全員でかかれば勝てるのかも、ケンタウロスは無理だ。相手の姿が見える前から弓矢で攻撃されたらどうすることもできない。
ゲームマスターの口ぶりでは、チビデブ三百もかなり難易度が高い想定だったらしいが、そんな計算ミスなど期待するだけ無駄というものだろう。
「第一階層も、隠し通路とかほとんど探していないし、探してみようか」
「そうだね。隠し部屋の宝箱はあっても良いよね」
ひたすら壁を叩いて歩く作業だが、人数も増えてきたし、みんなで手分けしてやればそれなりに広範囲を探索できるだろう。
サカキ一人を鍛冶工房に残して、みんなで迷宮第一階層にワープする。クランホームのこのワープ機能は便利だ。
第一階層は、普通の雑魚キャラ相手なら一人でも全然問題ない。手分けして大丈夫だ。塗りつぶされていないエリアに向かう人と、それぞれ斧を手に、隠し扉を探しながら進んでいく。
そういえば、すっかり忘れていたが、第一階層の裏ボスは発見していたんだった。ええと、どこだっけ?
記憶を頼りに進んでいく。隠し扉から裏ボス部屋に続いていることは確認したが、その道を真っ直ぐ進んだら何があるかは未確認だ。
第二階層の裏ボス洞窟には、ボスより強いモンスターがいたが、第一階層はどうだろう? 広間に出るならばそこから先に進むのは慎重になる必要があるだろう。もしかしたら、道に罠が仕掛けられているかも知れないが、そんなことを言って怖気づいていたら何もできない。
少々の危険は冒してこそ、ゲームである!
岩の隙間から隠れた通路へと入ってどんどん進んでいく。隠し扉はこの辺だったかな、というところは過ぎて、分岐した道をさらに奥に向かっていく。
さて、この先には何が出てくるのだろうか?
そんな心配をするだけ無駄だったようで、その先はただの行き止まりだった。壁や床を斧でガンガン叩いても、何の変化もなく本当にただの行き止まりのようだ。ふと思い出して、地面に手をついてみるが、魔法円が浮かんだりパネルが出てくるということもなかった。
諦めて再び道を戻り、別の分岐路へ入っていく。
戻っては進みを繰り返すが、そうそう『当たり』は見つかりはしない。隠し通路を見つけたのは探索開始から二時間くらい経ってからだった。
天井が高くなっていることに気付いて見上げてみると、高さ三メートルくらいのところに人が通れそうな穴があいているのだ。頑張って岩壁をよじ登って行ってみると、その先にはまた幾つもの分岐がある迷路が広がっていた。
未知の道を進んでいくと、出てくる敵も違った。
無数の棘というか角の生えた甲羅を背負った犬だ。いや、刺々しい亀に犬の頭が付いていると言った方が正しいか? そして大きさは、蹴るのにちょうどいいくらい!
ということで、正面から突っ込んで蹴り飛ばす! 亀犬の顎の下から思い切り蹴り上げると、HPゲージは一気に半分以下まで減った。
……第一階層にしては強いね。チビデブも芋虫も、わたしが思い切り蹴れば一撃で死ぬ。だが、続けて放った左の回し蹴りが亀犬の頭部に命中すると、HPはそれでゼロになった。
しまった。こいつの素材回収してない。何が取れるだろう? 背中の棘? それとも甲羅を取れるのだろうか? どうやったら取れるかな?
考えても分からないので、左手の斧で岩壁を叩きながら、右手には剣を持って進んでいく。亀犬はまだまだ出てくるだろう、あの程度の強さで数量限定ということはないだろうから、心配することはない。とにかく試しまくれば良い。