026 勧誘! クランメンバー
さて、これからどうしようかな。
「装備の強化しないと第三階層は無理だ。おれとツバキじゃ明らかに攻撃力が足りてない」
「確かにな。伊藤さんいなかったら全滅しかねないぞアレ」
「どういうこと?」
キキョウが良く分からないと首を傾げる。
端的に言うと、一匹倒し終わる前に、次のクマが出てきてしまう可能性があるということだ。なんか、そんな現象を見たことがあるような気がするぞ。敵がどんどん増えて対処不能になってしまうやつ。
「仲間募集しよう! 仲間! 鍛冶職人も欲しいし」
「あ、そうだね」
ヤナギが言いだしてキキョウが元気よく同意する。ならば、勧誘は二人に任せて、戦闘組は迷宮に行ってひたすら狩に励むことにしよう。武器を作るには素材が必要だ。
となれば、とにかくチビデブからダガーを奪っていく作業だ。簡単そうだが、一撃で殺してしまわないように気を付けなければならない。特にわたしが。
わたしは斧を手に、第一階層の岩壁をガンガンと叩きながら進んでいく。音に釣られてやってくるのか、チビデブは割と頻繁に出てくる。一度にまとめて二、三匹出てくるし、意外と早いペースでダガーは集まっていく。盾とか鎧とか考えると、材料はいっぱいあるに越したことはない。
マップを埋めながら進んでいると、叩く壁の音が変わった。前にも振り返ってみても人の気配は無い。ボス部屋へのルートから外れている上に、大岩の陰の裂け目から入った奥なので、そうそう人は来ないだろうけど。
とりあえず、付近にボタンを探す。第二階層でもすぐ近くにあったんだから、第一階層の方が見つけづらいとかないだろう。
「これか?」
丸い出っ張りを押してみると、岩壁の一部が奥に消えていく。そこから入っていくと、ボス部屋への前にすぐに出た。
行ってみようかと思ったけど、初回ボーナスって裏ボスにもありそうなんだよね。たぶん、みんなで行った方が良い。
「儲かってまっか? ワイは上々や。一旦ホームに集まろうよ」
ボイスメールをみんなに送ると、「ボチボチでんな」と返事がきた。『帰還の水晶』を使うと、ホームのリビングに帰ることができる。
迷宮組はクランホームまで一気にワープして帰ってきたけど、キキョウとヤナギは徒歩だし、ちょっと時間がかかるだろう。
「わたしはダガーの処理してるね」
百本近くドロップしているのだ。邪魔臭いし鍛冶工房に向かい、サッサと溶かしてしまう。これは別にスキルとか要らないみたいだし、パネル操作するだけで終わる簡単仕様だ。
十本まとめて処理とかできるようで、ダガーをどんどん溶かしてインゴットにしていく。第一階層の最初の敵から手に入る『古びたダガー』なんて、攻撃力も耐久値も低いしタダの鉄屑扱いだ。
できたインゴットは倉庫に放り込んでおく。続いてツバキとヒイラギがダガーを溶かしている間にキキョウとヤナギも帰ってきたようで、鍛冶工房にやってきた。
「ダガーはかなりいっぱい取ってきたよ。他の材料は要らないの?」
「材料よりも、まず、スキルレベル上げだね。他に必要になる材料は木炭だから、たぶん農園が必要。強い武器はそれからだね」
「そしてそして! 鍛冶職人と農業の志望者が見つかりました! 自己紹介どうぞ!」
ヤナギに促され、三人が入ってくると一人ずつ自己紹介を始める。
「えっと、サカキだ。リアルでは農業やってるんだけど、だからゲームでまで農業やるつもりはない。けどまあ、物づくりしてる方が性に合うしそっち系をメインにしたいと思ってる。っていうか、正直、戦うセンスが無えっていうか、運動神経は鈍い方だしな……」
体格は良く強そうに見えるのだが、反射神経が鈍いとかで、敵の攻撃に対処するのが苦手なのだそうだ。
「じゃあ、次の方、どうぞ」
「わたしはクルミで、こっちがアンズ」
……。木の名前ばかり連れてきたな。別に拘らなくていいのに……
まあいい。
女性二人はリアルの知り合いで、クルミが農業、アンズが畜産をやりたいらしい。畜産ができるのか知らんけど。レベルは三人とも四。かなり死にまくってるらしい。第一階層はそんなに難しくないと思うんだけどなあ。とはいえ、わたしも伊藤さんと会わなかったらどうなっていたか分からない。
「農園はわたしたちも全然情報ないし、思ってるのと違うかもしれないよ? それだけは覚悟しといてね」
「はーい」
二人とも明るく元気な返事をする。わたしも自分があまり社交的なタイプとは思っていないが、コミュニケーションを自ら拒否するような人とは仲間になれない。そんな人をキキョウとヤナギが連れてくるとは思わないが、話しやすそうな二人にほっとする。
「鍛冶はここでやるのか?」
「当分はここだね。そのうちグレードアップしたいけど、まだまだ先だと思う」
「念のためだけど、ここのトップって誰だ?」
サカキの質問に、みんな揃ってわたしの方を見る。何故だ。
「い、伊藤さんでしょ?」
「そんな話、一言もしてなかったじゃん」
「リーダーはユズだろ」
なんとか誤魔化してみようと思ったが、わたしの悪あがきをセコイアもツバキも一蹴する。
ぬぐう。
でも、最強は伊藤さんなんだぞ。などと言っていても話は進まないので挨拶をする。
「わたしが雑木林のリーダー、剣士のユズである! 何か質問はありますか?」
とりあえず胸を張って自己紹介してみた。
他に質問も無いようなので、三人に改めて加入意思について最終確認する。
「クランに入りたいかー?」
「入りたーい」
「よろしくお願いします」
ということで、水晶玉のパネルを開いて三人をクランに招待した。
「じゃあ、農園をゲットしましょう! CP回復してきたし」
「二百五十だっけ?」
「そんなに要るの? あたし、六十四しかないんだけど……」
「あ、そもそも、一人でやるものじゃないっぽいから。みんなで注ぎ込まないと無理」
そもそも、現時点では一人で二百五十もCPを持っている人はいない。CPがそこまで上がるのはレベル五十以上になってからの計算だ。レベル二十にも達していないのに、そんなにあるはずがない。
レベルそれほど高くなくても、八人いれば五百は軽く超える。他にも使う用途があるかも知れないので全部注ぎこむわけにはいかないが、どうせなら上乗せして拡大しておきたい。説明には、CPを追加で支払えば農園が大きくなると書かれていたはずだ。
ということで、八人でぞろぞろと税務署に向かう。CPを納める必要があるので全員で行く必要があるのだ。街中の施設はワープしていくことができないので徒歩で行くしかない
「じゃあ、買うよ!」
ホームと違って農園に種類はない。いつの間にか説明が追加されているが、買うことに変わりはない。ここで買わない選択肢など無いのだ。
説明を改めて確認すると、CPを注ぎ込んだ量によって広さが変わるが、それに応じて毎週払うCPも多くなる。その時に増やして広げることはできるが、減らすことはできない。
とりあえず三百を使って農園を買うと、目の前が一瞬真っ白になったかと思ったら、自宅の天井が見えた。
「は? え? 何?」
突如のことに、ガバッと起きて周囲を見回す。別に地震や災害が起きているような感じはしない。念のため、ニュースを見てみるが災害情報は特にない。
照明はちゃんと点くし停電でもない。『ゲート・オブ・ラビリンス』の公式サイトを見ても特に障害情報もない。
なんで突然落ちたの?
もー、ビックリだよ!
もう一度接続してみると、真っ白な空間に放り込まれた。
おい。
「こらーーーー! ゲームマスター出てこーーーい!」
叫んでも返事はない。ってちょっと待てよ! メニュー! メニューは開けるの!
あ、出た。良かった、超焦った。メニューが開かなかったら、どうやってログアウトするのかって話だよ。
ならば、やることはただ一つ!
通報! 通報! 通報じゃああああ!