023 達成! クランホーム購入

第二階層は、ボスそのものよりもボスまでの道の方がキツい。

曲がりくねった道の死角には必ずモンスターが潜んでいると思った方が良いような状態だ。しかも数が多く、戦闘が長引けばどんどん敵がやってくる。

とはいっても、第三階層のように頭上や背後からの襲撃がないので対処しようと思えばできる。『無傷の勝利者』を構えてわたしが先頭に立ち、そのすぐ横を盾を持つツバキとヒイラギが固める。

そして、後列三人組が岩陰に向けて魔法を放ってやれば、潜んでいるモンスターは飛び出てくる。そこを叩き切れば良いだけだ。

「これさ、他の奴らってここまで来れないんじゃないか?」

「おれたちだってユズの剣が無かったら、無理だろ」

「伊藤さんなら安物の剣でも突き進めそうだけどね」

そう考えると、今のわたしたちはレベルが低すぎるのかもしれない。わたしが最高で現在十六だが、全員が二十くらいになってから来るものだとしたら苦戦するのも当然と言える。

ただし、ボスは弱い。四人が電撃を使えるのだから、開始と同時に三匹のサメは沈黙する。気絶スタンしたサメなど何も怖くない。あっさりと倒し、一匹から四つ、合計で十二のフカヒレをゲットして、奥の小部屋で撃破ボーナスを得たら町へと帰る。

「さて、いくらになるかな?」

「七万は超えてるはずなんだよな?」

雑貨屋に売り払いに行ったら、フカヒレ含めて全部で八万ゲー近くになった。頑張ったぞ、わたしたち! ボス撃破報酬も含めれば、所持金合計は十五万ゲーを超える。

「よし、じゃあクランホーム買いに行くぞーー!」

「おーーー!」

意気込んでみんなで市役所二階へと向かう。一番安いタイプしか買えないが、カタログを見た限りでは、そんなにショボいというほどでもなかったし、大丈夫だろう。

「家の一覧おねがいします!」

受付で声を掛けると、パネルがポンッと出てくる。みんなそれぞれ開き、良い物件がないか探し始めた。

「あれ? 家ってこんなに詳しく書いてあったか?」

「運営に文句言ったら増えた」

「なんでだよ!」

何故わたしがそこで文句を言われなきゃならないのか。ホームを選びやすくなったから良いではないか。面倒な質問は禁止にして、適当に幾つか候補を出すようにとだけ言って自分も探す。ある程度目星をつけたら、みんなで検討だ。

「三十九番よくね? 俺、こういうの好き」

「私は断然二十二番」

「二十二だったら、十八も良くない?」

「一番安いのでも種類いっぱいあるんだね」

カタログには高い城みないなのもあるが、安い者ものも充実している。やたらと和風な木造家屋、レンガ造り、石造り、謎テクノロジーの謎建築。色々あるなかで、意見が一致したのはレンガ造りの家だった。

工房は四つ設置することができ、クランの登録可能人数は三十人まで。それで金額は十五万。お店も欲しいがお金が足りない。そもそもCPが足りなくなるはずだし、一度には買えない。

「あ、わたし、インベントリの空きがない。家って十枠必要なのよ。ちょっと誰か代わりにお願いできる?」

「じゃあ、私が買うよ? 十八番買うよ? 買っちゃうよ?」

「買えー!」

「おりゃあああ!」

わたしがお金を渡すと、ヤナギがぽちっとする。ここではお金の支払いだけらしく、無事に買えたようだ。

「じゃあ、建てる場所に行ってみよー!」

「おー!」

興奮気味の六人が連れ立って市役所を出ると、広場を横切り、ぞろぞろと町の東南側のエリアに向かう。そこは空き地が広がっているホーム用のエリアだ。

「この辺りに建てられるはずだけど、どこにする?」

「あっちの方が見晴らしが良さそうだな」

「ちょっと迷宮から遠くない?」

「どうせワープするから気にしない」

「あ、そっか」

あーだこーだと言いあい、最終的にみんなの意見を総合して、お店用エリアに一番近いところにすることにした。

「よし、じゃあ、いくぞー。えい!」

ヤナギがメニューを開いて操作すると別のパネルが出てきた。そこにみんなで注ぎ込むCPを入力していくと、地面が光り建物がにょきにょき生えてくる。三十秒ほどで塀付き庭付き二階建ての家が完成し、わたしたちは歓声を上げる。

「じゃあ、早速入って、クラン登録じゃー」

だが、開けようとしてもドアはびくともせず、その前にパネルが現れた。

『クランの名前を入力してください』

ほげーーーーー! 名前! 考えてなかった!

「やばい! 名前どうしよう?」

「ユズと愉快な仲間たち?」

「そういうのはやめてよ」

「じゃあ、剣王?」

「そりゃ伊藤さんだけや」

「そうね、なら、雑木林ぞうきばやしとか?」

「何で雑木林だよ?」

「ほら、みんな木の名前でしょ? ユズにセコイア、キキョウ、ツバキ、ヒイラギ、それに、ヤナギ」

「良いかもね。雑木林。どう? どう?」

愉快な仲間たちや剣王よりは良さそうということで、クラン名は『雑木林ぞうきばやし』に決まった。

「じゃあ、これで登録!」

ヤナギがボタンをタップすると、パネルが消えて扉が開く。玄関の扉を入ったところは飾りの少ない広間になっていた。

広間の奥に直径五十センチくらいある水晶玉が壁に埋まっている。触れてみるとパネルが表示された。これがクランの管理用らしい。

「じゃあ、みんな招待するねー」

ヤナギはぽちぽちとパネルを操作していく。クランの招待が来たので承認したら、リーダーをわたしに変更された。

「あれ? リーダーわたし?」

「ユズじゃなかったの?」

「いや、ユズだよ。僕たちもユズに誘われたわけだし」

な、なんだってーーーー!

だが確かに、伊藤さんを勧誘したのも、セコイアとキキョウに声を掛けたのもわたしだ。リーダーとか柄じゃないんだけどなあ。

しかし、そんなことで揉めてもしかたがない。ログインしてないけど伊藤さんにも招待状を送っておいて、屋内設備の確認だ。工房も設置しないと。

「で、工房は何から作る? どこに設置できるんだろう?」

「ちょっと待て。工房持ってるのかよ?」

「あるよ? えーとね、鍛冶に皮革、織物工房に厨房の四種類。木工とか石工は持ってないけど、他のゲームとか考えたらはあっても良いと思うんだよね」

「まず、鍛冶じゃないか? 武器と防具を強化したいんだからよ」

「魔法使いのローブはたぶん織物でしょ。皮革は今のところ装備している人いないし、料理は材料がフカヒレと鮭だけじゃどうにもならないと思う」

確かにツバキやキキョウの言う通りだ。

ということで特に異論なく最初は鍛冶工房ということで意見が一致した。のは良いんだけど、これ、どうすれば良いんだ?

「まず、この家の中ってどうなってるんだよ。そこのドアから見ていこうぜ」

ツバキは幾つかあるドアの一つに手を伸ばすが、ドアはびくともしない。替わりにパネルが現れた。

「ここで工房使えば良いみたいだぜ。おれだと工房持ってねえってメッセージしか出ねえ」

ということで、パネルを確認して鍛冶工房(小)を使ってみる。ぽちっとしてみると、扉に魔法円が浮かび、カッと光る。

そして、扉がゆっくりと開いていった。

「おお、これが鍛冶工房なのか」

工房の広さは十二畳くらいだろうか、右手の壁には幾つかの炉が並び、左には何やら工具の収まった棚がある。奥には大きめの机があり、紙束が置かれている。

「これが基本レシピなのね」

紙の束には材料の一覧や設計図、製作手順などが書かれているようだ。キキョウとヤナギが興味深そうに紙の束をめくっていく。

「武器の補修とかもできるの? なんか耐久値が段々減ってきてるんだけど」

「あー、ボロい剣で試してみようか」

「ええと、剣の鍛え直し方の基本はこれだね」

二人は頷き合って、インベントリから『古びた剣』を取り出すと、炉に入れたりハンマーで叩いたりする。

「結構かかりそう?」

「一つ一つの工程に結構かかるね。中断することはできるみたい」

二人には作業を続けてもらうとして、わたしたちは作る武器を選ぶ。ここにないレシピも集めていく必要があるだろうけれど、今はここにあるもので、一番良いものを作りたい。

「俺は剣が欲しいな」

「おれも剣が欲しい」

ツバキとヒイラギはそろって剣を所望するが、ちょっとそれは止めてほしい。

「みんなで剣士やるのはやめようよ。斧とかハンマーとか必要だし」

「必要なのか?」

「第二階層にカエルいたでしょ? どうかんがえてもアイツ、斬撃耐性とかあるんだと思うの」

「ああ、そういえばそうだったな。物理攻撃にも属性があるのか」

他のゲームではよくあることだ。物理攻撃や防御には衝撃、斬撃、貫通といった三つの属性があって、たとえば鎖帷子のようなものは、斬撃には強いけど貫通や衝撃を伴う攻撃には滅法弱かったりする。

そこを考えると、みんな揃って剣をメインにするのはどうかと思う。何かあったときのための予備武器として剣を持つのは全然構わないが、剣に偏重すると対応できない敵に出くわさないとも限らない。二人とも他のゲームの経験はあるようで、そのあたりは理解してくれた。

「じゃあ、俺は今まで通り斧で行った方が良いのか」

「そうしてくれると助かるよ」

「で、この材料の鉄ってどこでどうやって入手するんだろう?」

「武器とか潰せないのか?」

「この炉に放り込んでみる? どうやってやるのかな」

インベントリから『古びたダガー』を取り出して溶鉱炉っぽいやつに入れて、精製開始ボタンを押してみる。所々についている小窓から赤い光が漏れ、何やらゴゴゴゴと音がする。そして、横から何か出てきた。

『鉄のインゴット(小)』

小かよ! それが、ころんと一個出てきて溶鉱炉は沈黙する。なるほど、それで、これが何個あれば良いのだね?

「インゴットの小が十個で無印、無印が十個で大になるらしい。で、斧一本作るのに無印インゴットが二つだ」

「じゃあ、斧一本作るのに、ダガーがあと十九個必要なのね?」

「俺の剣か槍も頼むな」

仕方が無い。チビデブ狩りにでも行くか。わたしも少し剣術の練習のために普通の剣で行こう。第一階層なら、最悪キックすれば良いし一人でもなんとかなるだろう。それに、ゲームマスターは隠し要素をあちこちに仕込んでいるような口ぶりだった。裏ボスとか探してみても良いかもしれない。

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