020 募集! 新メンバー
広場で大声を上げていると、槍と大きな盾を背負った人がやってきた。赤髪で身長は結構高い。伊藤さんよりは大きそうだし、百八十センチは超えているだろう。
「クラン立ち上げって、最低で十万G必要だろ? いくら巻き上げる気だよ。あの金額じゃあ、トップグループでも立ち上げはまだ当分先だろうな」
「当分って言っても、数日で貯める予定ですけど」
「今の人数でも、今日中に五万はいけると思うんだよね」
昼に第二階層で集めた素材の売却金額は確認済みだ。頑張って狩りをしていれば、今日中に一万から二万くらいはいけるだろう。
「そんなのどうやって稼ぐんだよ?」
「えっと、第二階層の」
「それ以上は秘密!」
キキョウがぽろっと漏らしそうになり、わたしは慌てて遮る。たぶん、モンスター解体はわたしたちしか知らない。知っているなら、十万Gを無理だなんて思わないはずだ。
ソロで集めるのは大変かもしれないけれど、人数集めてパーティー組んでやれば十万はすぐに集まる金額だ。
「まだ、第三階層はキツイからね。先に、魔法とかもうちょっと強力なの欲しいよね」
「第三階層って、ずいぶん気が早くねえか? さっき最初の奴らが第二階層のボス倒したばかりだろ?」
「うん、倒したよ? 意外と弱かった」
「は? え? ちょっと待て?」
突如、槍の男は狼狽えだした。メニューを出してパネルを操作して、わたしたちを見る。
「倒したの四人パーティだろ? 一人少なくねえか?」
「残念ながら、伊藤さんはログアウトの時間なのよ。わたしがユズで、こっちがキキョウ」
「僕がセコイア。で、どうなのかな。仲間になるつもりもない人と時間を潰していたくないんだけど」
「ちょっちょっちょ、ちょっと待ってくれ!」
慌てながら槍さんはメニューポチポチ操作して「今すぐ神殿前に来てくれ!」と二件のボイスメールを送る。と、三十秒も待たずに斧を持った男が現れた。こっちも赤髪に劣らず大きい。
「おい、ツバキ、一体何の用だよ?」
「ヒイラギ、よく聞け。こちらは第二階層のボス初回突破記録の方々だ。トッププレーヤーと仲間になるチャンスだ」
「パーティーっていうか、クランメンバー募集中だよー」
「おれたちで良いのか?」
「まだ二日目だし、レベルとかみんな大差ないでしょ?」
キキョウなんて今日のお昼に始めたばかり、迷宮に行ったこともないところを勧誘したんだ。戦ったことがあるっぽい人たちなら問題ないだろう。
それに、本当に強い人って、伊藤さん以外に知らない。わたしなんて、伊藤さんからみたら絶対ザコだ。
「誘ってくれるのは有り難いんだけど、俺たち、まだ第一階層のボスも倒せてないぞ?」
「ボス倒したのって僕たち以外に何人いると思ってるのさ」
「せいぜい、二十人くらいじゃない?」
メニューを開いて記録を見てみても、まだボスの撃破回数は六でしかない。そのうちの二回は第二階層で会った五人組なのは分かっている。もう一回も大人数というのは考えづらいし、せいぜい四、五人だろう。あの五人組が再挑戦した可能性もある。
「攻略方法知っていれば、第一階層も第二階層も、ボス戦は大して難しくないよ」
「ハッキリ言って、楽勝だね」
「は?」
二人は間抜けな声を出して固まるけれど、攻略法を知ってしまえばあれはザコだ。弱点を突く戦術を覚えるためのチュートリアルみたいな位置づけにしか思えないくらいだ。
「ひゃっほー。ツバキ、何かあったの?」
固まっている二人の後ろから、やたらと陽気な女性の声が掛けられた。
「おう、来たか、ヤナギ。この方たちと一緒のパーティーでやろうと思うんだが、どうだ?」
「女性二人に男性一人? つり合いとれるし良いんじゃない?」
そういう観点か。向こうは男二人に女が一人。合わされば男女ともに三人ずつになる。見た感じ、男二人は近接派で、女の方が遠距離っぽいし、その意味でもバランスは悪くない。
三人でなにやらゴニョゴニョと話し合って「一緒にやりたいです!」と元気のいい返事がきた。
「じゃあ、早速、第二階層に向かいましょうか」
「いきなり第二階層かよ。普通、自己紹介とかからじゃないのか?」
「歩きながらで良いじゃん、そんなの」
男女の出会いを求めているわけじゃないのだ。雰囲気の良い店で自己紹介、なんて面倒なだけだ。パーティーへの招待を三人に送ると、スタスタと歩いて迷宮に向かう。
「俺は、ツバキ。レベルは八で見ての通り、アタッカーだ。よろしくな」
ツバキたち三人が軽く自己紹介している間に迷宮の入口に着く。実際の強さというか戦い方は見てみないと分からないから省略だ。
「んじゃ、こっちはわたしがユズ。レベルは十八で、一応、剣で戦ってるけど、わたしは魔法もやってみたいと思ってる。攻撃力の高さと防御力の低さには自信があるよ」
「僕はセコイア。魔法使いで、電撃がメインだけど、もっと色々と増やしていきたいと思ってる。レベルは十五」
「ギャア、ギャア」
自己紹介の途中で出てきたチビデブを蹴り殺し、ボス部屋へのルートを進んでいく。
「蹴るのかよ!」
「一撃で殺したぞ」
「そのカッコイイ剣は飾りなの⁉」
「相手があれだけ小さいんだから、剣とか振り回すよりも蹴った方が速いし確実だよ」
わたしの後ろで、新参三人がドン引きした様子でボソボソ言いあっているのは聞こえている。だが、第一階層はキックだけで進めるのは間違いのない事実だ。
伊藤さんと二人、丸腰で蹴り進んでいたのは昨夜のことだ。チビデブのダガーはともかく、わたしが剣を手にしたのは、ボス戦で奪ってからだ。それまでは、ほとんどキックしかしていない。
「僕たちも最初、蹴れって言われたよ」
「ビックリしたよね。でも、本当にそれだけで勝てるんだもん、もっとビックリだよね」
セコイアとキキョウはそう言うが、蹴れば良いと最初に言ったのは伊藤さんだ。わたしじゃない。
というか、自己紹介が止まってる。
「あ、そうそう。キキョウです、よろしくお願いします。戦うのはあまり得意んじゃないんだけど、えっと、生産系希望です」
実際、キキョウはあまり戦闘に参加していない。魔法をちょっと使うくらいだ。あとは斧やハンマーで動けない敵にトドメを刺したりするくらいだ。
話をしながら敵を蹴飛ばしているとボス部屋の前にすぐに到着する。
「さて、ボスだな」
「攻略法とか教えてもらえると有り難いんだが」
「基本、速攻。動く鎧は動き出す前から当たり判定あるから、ダッシュで行って剣を抜く前に蹴り倒す。んで、剣を奪う」
「奪う? 剣を? どうやって?」
それは、やってみれば分かる。扉を開けると男性陣が右側、女性陣が左側へと向かって全速力で走る。
「とおりゃあああ!」
なんだか久しぶり感のある跳び蹴りを食らわせると、一歩前に出た動く鎧は盛大に転ぶ。その腰の剣を引き抜いて捨てている間に、キキョウはもう一つ奥の鎧に向かって走る。
「蹴り倒した奴の鞘から剣を奪って! 武器が無ければこいつらはただのザコだから!」
叫びながらわたしはさらに奥の鎧に向かって走る。手前から二番目はキキョウが、三番目はヤナギが蹴り倒した。もう一匹蹴り倒すと、残りは全部抜剣している。敵の数は全部で十二。そのうち、剣を奪えたのは八だ。四体はしっかりと剣を構えている。
「全員入口に戻って!」
ダッシュで戻ると、鎧たちはガッシャン、ガッシャンと追いかけてくる。
「剣を持ってない奴相手なら、武器を前に突きまくっていれば負けないから!」
その基本戦術は伊藤さんに教えられたものだ。勝つためのやり方じゃなくて、負けないための方法だが、倒してまわる役が一人いれば良いのだ。
わたしは左右の腰に差した『無傷の勝利者』を抜き、横に逸れて柱をぐるっと回って、剣を持った鎧に切りかかる!
上から振り下ろしてくる刃に右手の剣を合わせると、相手の剣はあっさり止まる。そして左手の剣で相手の胴を薙ぐと一撃でHPはゼロになった。
おおお! 強い! 『無防の力』の攻撃力三倍ってメチャクチャTUEEEE!
「ははははは! 死ね! 死ぬが良い」
わたしが瞬殺していき、動く鎧の数はあっと言う間に減る。そして、残りはぜんぶわたしに向かってきた。だが、それも高笑いを上げながら剣を振り回していればすぐに片が付く。
「第一段階突破! 次行くよ!」
「まだ何かあるの?」
セコイアとキキョウは言われずともバラバラになった鎧のパーツを手にしているし、面倒だからそのまま奥へと向かう。この骸骨も殺す前に剣を奪うため、椅子から立ち上がって前に出てくるのを待つ。
『汝ら、我が財宝を狙う命知らずの愚か者よ。あの世で後悔するがいい!』
……そんな台詞があったのか。一度目は慎重に奥に向かったから骸骨を見つけたときには既に立っていたし、二度目は斧で殴りまくって喋るのを妨害していたっけ。
骸骨は椅子から立ち上がると真正面に立つわたしの方へと歩いてきて、キキョウの転がした鎧に足を取られて転倒した。
「剣を奪って蹴り殺せえええ!」
わたしの号令でキキョウが骸骨の右腕を蹴飛ばして剣を落とさせると、セコイアと二人でボコボコに蹴りつける。
「ほら! みんなも!」
「どこのヤンキーのリンチだよ!」
ツッコミを入れつつも三人も加わり、みんなで蹴り殺す。
「……なんか、思っていたのと違うんだけど。こういうゲームなの……?」
HPゲージがあっという間に真っ赤になった骸骨を見下しながら、ヤナギが呟いた。