016 集結! 四人揃ったしいきますよ!
第二階層の定番ということで、まずセコイアが電撃を放ってやる。予想通りと言うべきか、昆虫であるカマキリは気絶しない。電撃で気絶するのは水系モンスターの弱点ということなのだろう。
とりあえず巨大なカマの付け根を狙って『無傷の勝利者』を振るとスパッと切れてカマが落ち、カマキリのHPがぐぐんと減る。
「おりゃあああ」
アイテムをドロップしたら遠慮することはない。一気に殺しにかかる。そして、死んでからバラせるところがないか探していく。
「翅は取れないみたい」
「足も無理だね。カマだけなのかな?」
回収してみると、『カマキリのカマ』は二個の表示になった。とりあえずそういうものと納得して次は蜘蛛だ。
色々頑張った結果、蜘蛛は『蜘蛛の毒牙』と『蜘蛛の糸袋』、蟻からは『蟻の毒針』が取れた。全然気付かなかったけど、尻に毒針があったようだ。
「一匹から取れる数はモンスターの種類次第か」
「で、どれ狙っていく?」
「一度町に戻って値段の確認する?」
「魔法も買いたいよね。虫には電撃は効きづらいみたいだし」
うーん、どうしよう? 町に戻る時間のロスをどうみるか。
ええと、現在時刻は。メニューを開けば出てくる。もう十七時を過ぎている。そろそろログアウトした方が良さそうな時間だ。
「噂の伊藤さんか。僕も会ってみたいな」
「私も。凄く強いんでしょう?」
「それじゃ、十九時ごろにはログインするつもりだから、また後で」
『帰還の水晶』を使って町に戻ると、わたしは一旦ログアウトする。二人も一度ログアウトするらしい。晩ご飯抜くわけにもいかないしね。
昼食が手抜きだったぶん、夕食はちゃんと作った。
香辛料たっぷりの鶏肉をグリルして、胡麻で和えたホウレンソウに、油揚げと長ネギたっぷりのお味噌汁。薄切りのタマネギと千切りのニンジン、ちぎったレタスを軽くマヨネーズで炒める。
え? 手抜き料理? そんなことないよ?
マヨネーズ炒めはビールのおつまみにも良いんだよね。酔っぱらってのフルダイブは禁止されているから飲めないけど。
食べて食器洗いを済ませると、もう十八時半を過ぎている。軽くニュースを流し見てから顔を洗い、歯磨きを済ませてからベッドに向かう。
ヘッドギアを着けてスイッチを入れれば、わたしの意識はゲームの世界に飛び込んでいく。
さて、フレンドリストを見たが、伊藤さんもセコイアもキキョウもまだインしていないみたいだ。ちょっと町をぶらぶらしてみよう。
税務署とか裁判所はまだ入ったこともない。一体何があるのだろうか。
税務署に行ってみて意外なことが分かった。
農園なるものがあり、そこで農畜産業ができるらしい。ただし、登録に必要なCPは二百五十。わたし、まだ百十なんですけど? レベル一につき三しか上がらないみたいだから、あと三十上げなきゃならないの? ひどくね?
しかも維持のために、毎週二百五十必要って……
がっくりしながら税務署をでて出て、裁判所に入って見たが、こちらは何もなかった。そのうち裁判関連のイベントでもあるんだろうか。
そして歩き回っていると見つけましたよ、闘技場。
模擬戦とかできるみたいね。一対一だけじゃなく、チーム戦も用意されているようだ。たぶん、そのうち大会とか始まるだろう。
「ほへー」
とか言いながら歩いていたら、ボイスメールがやってきた。
『こんばんは、キキョウです。今どこですか? 私は神殿前広場です』
とりあえず合流するとしよう。
「わたしは今闘技場前。そっち行くね」
キキョウにボイスメールを送って神殿前広場に向かう。
出店があるわけでもないただの広場だが、人は結構いる。迷宮からワープで帰還すると出るのはこの広場だし、死んで戻ってくるのもここみたいだ。「死んだー!」とか叫びながら出現する人が時々いる。
きょろきょろと見回してみるが、どこだキキョウは?
魔法使い増えすぎ! 黒のとんがり帽子に黒のローブの女性だけで二十人近くいる。
「ユズさん!」
声に振り向くと、キキョウが手を振りながら駆け寄ってくる。
「こんばんはー。見つけるの早いね。わたし全然わかんなかったよ」
「ユズさん、結構目立ってますから」
「え? そうなの?」
わたしは全然気にしていなかったけど、初期装備の見すぼらしい生成りの服に、剣と靴だけ豪華でひどくアンバランスなのだそうだ。しかも、剣は左右に差した二刀流のため、それだけでわたしだと分かるらしい。
「そういえば、ユズさんはやめてくれない? ユズで良いよ。敬語とかも要らないし。気楽にいこうよ、気楽に」
最低限の礼義は必要だと思うが、そもそも遊び場で畏るとか意味が分からない。お堅いフォーマルな場所であるはずもないし、敬語とか要らないだろう。
「そうですね。えーと、じゃあ、ユズ」
照れ臭そうに言うが、顔の表情は変わらない。このゲームに、顔の表情を変える機能はないのだ。
「あ、そういえばキキョウは農園って知ってる? 農業とかできるらしいんだけど」
「農業は興味ないけど、素材とか農業じゃなかったら手に入れられなかったりするのかなあ?」
「可能性はあるよね。当分は農業やる人いないだろうけど」
「どうして?」
「初期投資が高いのよ。CPなんと二百五十」
「ええ? 高すぎない? あ、もしかしてクランでやるものなのかも」
「クランで?」
「十人いれば二十五ずつでしょ? それくらいなら全然いけると思うし」
なるほど。だけど、クランの設立自体、わたしたちが最初になりそうな気がする。第二階層に到達した人もまだ少ないし、何より、アイテムのドロップはなくて強奪するものなのだと知っているのは、今のところ私たちだけなんじゃないかと思う。
「あ、いたいた」
キキョウと立ち話をしていたら、いつの間にかログインしていたようで、セコイアがやってきた。
「伊藤さんはまだなのかな?」
「まだみたいだね」
時計は十九時ちょうどだが、フレンドリストの伊藤さんはオフライン状態だ。
「ただ待ってるのも何だし、魔法でも買いにいきましょうか」
「伊藤さんは良いの?」
「買わなくてもコピーできるみたいだし、持ってないやつだけ仕入れようよ」
「それもそうか」
ということで、魔法屋にやってきた。
買った魔法は、セコイアは『氷の槍』、キキョウは『炎の槍』、そしてわたしは『風の刃』だ。風に槍は無いらしい。
お金を支払い、CPを消費して魔道書をゲットした。魔法を使うには、これに書かれている呪文を覚えないとならない。
必死にブツブツ唱えていると、出しっぱなしにしていたメニューパネルの伊藤さんの表示が変わった。
「こんばんは、伊藤さん。ユズです。今日もご一緒して良いですか? 仲間が二人増えているんですけど」
ボイスメールを送り、神殿前広場に急ぐ。
ぐるりと見回して見ても伊藤さんの姿はない。もう迷宮に向かったのかな?
迷宮への道を急ぐと何やらパネルを操作しながら歩いている伊藤さんを見つけた。
「こんばんは、伊藤さん」
「ああ、こんばんは。ごめんなさい、返信の仕方がよく分からなくて。で、仲間? 足手まといは要らないよ?」
伊藤さんは相変わらずだ。他人をとりあえず足手まとい扱いする。
「昨夜のわたしよりは戦えるし、大丈夫だよ」
パネルを操作してパーティーに招待すると、三人とも入ってきた。
「じゃあ、早速第二階層のボス戦行こう!」
「ちょっと待って、伊藤さんそれで良いの?」
「そのボスは強いの?」
「昨日の第一階層よりは強いんじゃないかな」
「じゃあ行こう」
そう。伊藤さんは弱い奴には興味がない人だ。分かってる。全員の意見が一致したということで、迷宮に入ると最短ルートでボスの間を目指す。途中に出てくるチビデブや芋虫は伊藤さんとわたしのキックで蹴り飛ばされ、踏み潰される。
というか、伊藤さんは完全にコツを掴んだようで、攻撃が毎回オレンジ色に光る。
「ここは昨日来たよね?」
巨大な扉の前で伊藤さんが首を傾げる。
「うん。またやる? 無視して行けるけど」
「無視できるなら無視で」
伊藤さんは判断が早く、簡潔に分かりやすい返答だ。
「じゃあ、こっち」
わたしの起動した魔法円はまだ薄い光を放っていて、そこに入るとメニューが出る。表示された『第二階層へ転移』をタップすると、視界が白一色で塗り潰され、次第に色を取り戻す。
「とりあえず右斜め前かな」
進みながら、立ちはだかるカエルを斬り伏せると、隣から「いいな、その剣」という呟きが聞こえてきた。
「使ってみる? 二本あるし一本貸すよ」
「本当? 良いの?」
「後で返してね?」
「分かった」
左に差した剣を抜いて渡すと、伊藤さんは嬉々としてカエルに斬りかかる。オレンジ色に光る伊藤さんの一撃でカエルは絶命する。恐るべし、クリティカルの女王。
ちなみにセコイアとキキョウはやることがない。この辺りの敵はほとんどが単体だし、伊藤さんは一撃で片付けてしまう。そういえば、クリティカルダメージ増加スキル持ってるんだっけ……
対抗してわたしも『無防の力』を装備してカエルに斬りかかる。防御力ゼロの代わりに攻撃力三倍だぜええええ! 一撃で殺るか殺られるか! 全ては一撃で決まる!