015 強奪! アイテムは敵から奪い取る!
お金は欲しいが、ドロップ売りさばく以外にも稼ぐ手段があっても良いはずだ。多くのゲームではクエストシステムとかがある。
「クエストとかどこにあるんだろう? っていうか、ガチャやろう! 何かあるんだよね?」
「ガチャって一人一回までじゃなかったっけ?」
「大丈夫、わたし、まだやってない」
CPは全回復している。この百十を突っ込んで、いったい何が出るのか!
ドキドキ、わくわく。
ガチャに前に立ち、投入するCPをセットしてスイッチオン!
「こい、こい、こーーーーい!」
ピロロン、と音がして当たった景品が表示される。
『無傷の勝利者』『無防の力』『剛腕』
ふおおおおおおおお!
なんか出た、なんか出た! 凄そうなの出た!
ええと、ええと。
『無傷の勝利者』は剣だね。二刀流用らしい。攻撃力は、千五百だとおおお⁉ 斧の三倍! SUGEEEEE!
『剛腕』は腕力が二倍になるガントレットだ。コイツも凄え。
で『無防の力』って何よ?
装備位置はマント。装備効果は、防御力がなくなり、攻撃力が三倍になる。いやちょっと待てよ。防御力がなくなっちゃマズイでしょ? 攻撃喰らったらどうなるの?
「どんな攻撃でも受けたら一撃で死ぬとか?」
「やめて! マジやめて!」
「随分トリッキーなの出たね。なんか条件あるのかなあ?」
「さあ? CP百十突っ込んだからじゃない?」
適当なことを言って誤魔化しておくけど、たぶん、ノーダメージのせいだ。きっと、伊藤さんも同じの取れるんじゃないかと思う。ガチャとか言いながら、出るアイテムには色々条件がありそうだ。
怖すぎるので、マントは装備しないでおく。剣は凄くカッコイイので鎧とか欲しくなるけど、今は家の資金のほうが重要だ。頑張って貯めるべし。
「ということで、クエストってどこで受けれるのかな?」
例によって例の如く道行く人に聞いてみたら、すぐに分かった。
通常クエストは神殿か市役所で受けることができるらしい。酒場や宿屋など、あちこちに隠しクエスト、隠しイベントも用意されいるとのことだ。
まずは市役所だ!
『魔物退治:芋虫三十匹。報酬、二十G』
安ッッッッッ! 安すぎ!
「これ請けたら、次は高いの出るのかなあ?」
「出ねえ」
わたしの呟きに横から返事がきた。
「芋虫退治しかねえよ。何も無いよりマシだけど……」
「どこか他に何かあるのかな? 素材をドロップしたりとか。あ、でも芋虫は数百匹殺しても何も出なかったか」
「そんなにやったのかよ?」
隣からツッコミがくるけど、芋虫部屋はセコイアとキキョウもやっている。あれだけ殺戮しまくって何一つでないのだから、ドロップ設定は無いんだと思う。
「ユズさん、ちょっとちょっと」
わたしが考え込んでいたら、何か思いついたのかキキョウが「相談したいことがある」と人気のないところに引っ張っていく。
「ドロップ確率なんて概念が無いんじゃないかと思うんですよ」
「概念が無い?」
「そう。武器だって、敵が生きているうちに奪わないとドロップしないじゃないですか」
確かにそうだ。敵の手から奪ったり叩き落としたりはできているが、純粋にドロップしたということは一度もない。
「もしかしたら、他の素材もそうなんじゃないかなって思ったんです」
「つまり、要するに、芋虫とか魚も殺す前に切り刻んでみようってことで良いのかな?」
あまりやりたくないなあ、と思いながら確認してみると、キキョウはその通りとばかりに大きく頷いた。
なるほど、方向性としては悪くないだろう。現在時刻は十六時半。準備を含めて夕食に一時間半かかるとすると、伊藤さんがくるのが十九時ごろのはずだから、間に合わせるには十七時半くらいまでにログアウトすれば良いだろう。
ということで、モンスター解体作戦に乗り出した。
が、わたしの剣『無傷の勝利者』は強すぎて、一発で敵を真っ二つにしてしまう。……『真っ二つ』は気分だ。剣で切りつけても見た目上は切り傷ひとつつかない。ただし、叩き切ったという判定なのか、剣の刃は敵の身体を通り抜ける。なんとも奇妙な感じがするが、そこまで作り込めないのだろう。
ただし、チビデブの持つ武器は別で『古びたダガー』は一撃で粉砕する。どんな威力だよ、強すぎだろオイ。
芋虫も瞬殺だし、第一階層では敵が弱すぎて逆にドロップを狙いづらい。
「第二階層に行った方が良さそうだね」
「カエルだよね、カエル」
サカナは嫌です。できれば避けたいです。
「それは良いんだけど、魔法も使っていきたいんだけど」
魔法使いがキックや剣のスキルばかりレベルアップしても困るらしい。そりゃそうだ。そんなことを言いながら第二階層へと向かった。ボス部屋の入口横の魔法円でワープすると、第二階層をそのまま正面に進んでいく。
「ヴァセ、エイリエ、オレンソール、モノ、ソルベジア」
セコイアが詠唱すると、見つけたカエルを電撃が襲う。
刻んでやるぜと駆け寄るまでもなく、ぱたり、とカエルは地に倒れ伏した。そのまま動かないが、HPバーはまだ緑色で、八割は残っている。
「あれ? 電撃ってスタン付きなの?」
「そんな説明はなかったと思うけど……」
まあいいや。動かないうちに伸び出ている舌を切ってみる。
『無傷の勝利者』の剣先でちょっと引いてみると、スッパリ切れた。
「お、舌は取れるのかな?」
分かったら、目を覚ます前にカエルの頭に剣をぶっ刺して残りHPをゼロにしてやる。
「消えないね。これがドロップしたってこと?」
「あ、触らないで!」
カエルの舌を拾おうとしたセコイアに待ったをかける。それを拾わなければ、本体も消えないはずだ。ならば。
「とりゃあ、とりゃあ。切れろ、切れろ」
カエルの体を滅茶苦茶に切りつけてみる。
「ちょ、何してるの?」
「他に切り取れるところないかなって思って」
足は頑張っても切り落とせなさそうだし、目玉も抉れない。
腹這いに倒れてるのをひっくり返し、お腹を切り裂くと、中から何か出てきた。
『カエルの肝』『カエルの心臓』
これ、何かの役に立つんだろうか?
インベントリに入ったアイテムで分かるのは名称と数量だけだ。使い方はまったく分からない。鑑定系スキルは欲しいところだ。
他にもないかと刃を当ててみるが、どうやら切り取れる部位はなさそうなので、舌も回収する。
「解体できるなら、鮭とか身を手に入れることはできないのかしら?」
「あー、厨房があるんだから、料理の材料として取れそうな気もするね」
「行ってみる? かなり見た目キツイよ?」
二人とも、見るだけ見てみようということで、鮭の生息域に向かってみた。カエルエリアのすぐ隣だし、すぐに着く。
「うええええ、アレか」
「ホウライエソはそのまま飛んでたのに、何でこっちは足生えるの?」
これワザとだよ。絶対ワザとに気色悪い造形にしてるんだって。
初撃は遠距離攻撃の魔法だろうということでセコイアが電撃魔法を撃つと、鮭はカエルと同じようにぱたりと倒れた。
「スタン効果があるなんて書かれていないだけどなあ?」
「もしかして、雷属性がこいつらの弱点なんじゃない? ほら、見た目水棲モンスターって感じだし」
「ああ、なるほど……」
話しながら地面に倒れている鮭の足を切ろうとしたが、切れなかった。ならば。
三枚に卸してやる!
ひっくり返して、エラの下のところから頭を一気に切り落とす。と、HPが一気にゼロになり、足が消えていった。なんで?
そして、わたしのインベントリには、『鮭のカシラ』『鮭(頭なし)』が収まった。
だから、なんで?
「名前的に、たぶん、食材にはなるっぽい……」
「これは売れるのかな?」
「一人一匹ずつ狩ってみる?」
「いや、時間ないし次にいこう。あれ、深海魚だっけ?」
「うげえ」
「儲かるかもしれないよ?」
二人はやる気満々だ。仕方ない、頑張っても狩ってみるか。
結論から言うと、深海魚も電撃一発で地面に落ちた。本当にこの辺のモンスターは電撃が弱点みたいだ。第一階層のモンスターにも弱点属性とかあるのだろうか。そもそも魔法なんて使ってないから分からない。強いて言えばキック攻撃が弱点だ。
「これはあからさまだよね」
いかにもドロップしそうなのは背から伸びた擬似餌だ。ピカピカ光って、餌を誘き寄せる深海魚がよく持っているやつ。チョウチンアンコウの提灯だね。
気絶した魚の背に剣を当ててみたら、スパッと切れた。そして即座にトドメを刺す。
他にどこか切れるところがないか探してみるも、特に切れるところはなさそうだ。じゃあ、擬似餌を回収してと思ったら、キキョウに待ったをかけられた。
「なに? どっか取れそうなところある?」
「うん」
返事をしながら取り出したのは斧だ。大きく振りかぶって、深海魚の口に叩きつける。
ガッスン、ガッスンと何度かやって、「取れた、取れた」と喜ぶ。
なにが取れたのかと言うと、歯だ。鋭く大きな牙が根本から折れて転がっていた。
「深海魚は擬似餌と牙か。一匹から二つ以上取れるものなんだね」
「そういえば、カエルは三つ、鮭は二つか」
「チビデブって、武器以外も取れるのかな?」
「第一階層はともかく、工房のところの奴らって、鎧着てたよね?」
「アレも取れるのかな?」
でも、なんか面倒そうだし、後回しにしよう。とりあえず、奥の方の虫シリーズだ。まずは右端、カマキリエリアに向かう。