011 卑怯! とか言うな!
出てくるチビデブの相手は、キキョウとセコイアに任せる方向だ。だが、その前に大事なことがある。アイテムの強奪についてである。
岩陰から出てきたチビデブに突っ込んで、正面から蹴り倒す。
「こうやって蹴飛ばしたら転ぶから、武器を奪ってからトドメ」
言いながら二匹目、三匹目も蹴り倒し、腕を蹴飛ばしてから頭を踏みつける。
「拾ってみて」
チビデブの落としたダガーを拾うと、手元からフッと消え去る。
「消えたよ?」
「それでインベントリに入ってるはず。どういう判定なのか分からないけど、戦闘中でないときは持つだけで自動回収されるみたい。もしかしたら、ドロップアイテム扱いになってるのかも」
わたしも一本回収しておく。大した金額にはならないだろうけど、捨てるのは勿体無い。
「敵が持っている武器は、相手が死ぬ前に手から離させてやれば奪えたことになるみたい。だから、できれば最初に武器を狙うの。相手が武器を落としたら、戦いも楽になるしね。で、それが第一階層のボス攻略方法の要なの。最初に武器を奪ってしまえばそんなに難しくないよ」
わたしたちが第一階層を突破したのはレベル四のときだ。伊藤さんが強すぎるのもあるけれど、最初に動く鎧から剣を奪っていなければ、少なくともわたしにできることは何一つなかった。
戦い方の基本をレクチャーしながら、チビデブや芋虫を蹴り殺していればキキョウのレベルも上がってくる。レベル五になったことを機に、ボスに挑戦するということになった。別に、わたしが狩りに飽きたからじゃないよ!
マップを見ながら最短ルートを進んでいけば、ボスの間までは十五分もかからない。モンスターを蹴り飛ばしながら進んでいればすぐに着く。第一階層は本当に初心者が馴染むためなのだろう。敵の強さも、広さも全然大したことがない。
「おや、なんかいっぱいいるよ」
ボスの扉の前には十人以上が陣取っていた。見た感じ、ボス戦の作戦会議をしているっぽくもない。何してるんだろう?
「あの、通してもらって良いですか?」
「アンタら、たった三人で挑戦するつもりなのか? ボスはかなり手強いぞ? 俺たちと一緒に行かないか?」
「今すぐに行くなら一緒でも良いですけど」
「もうちょっと人数が欲しい。できれば目一杯の二十人で行きたいんだ」
それは待っていられないな。「残念だけど、今回は遠慮しておくよ」とお断りして扉へと向かう。
「仕方ねえな。後悔しても知らねえぞ」
「そうならないよう頑張るよ」
剣士っぽい男にヒラヒラと手を振って、わたしは扉を推し開ける。最初にちょっと押すだけで、後は勝手に開いて、勝手に閉じるのだ。
ゴゴゴと音を立てて扉が閉まっていく中、わたしは奥に向かってダッシュする。
「セコイアとキキョウは左の奴ら、わたしは右をやる!」
二人にはボス攻略方法の概要は伝えてある。まず、動く鎧が動き始める前に蹴り倒し、剣を奪う。開始早々、とにかくスピード勝負だ。剣さえ奪ってしまえば動く鎧は大した強さじゃない。
午前中にセコイアが挑んだ時は、動く鎧は八体いたらしい。昨日、伊藤さんとやった時は四体だったけど、なぜ増えたのか。パーティー人数に合わせて増えるんじゃないかというのが、わたしの中での最有力説だ。セコイアは四人パーティーだったらしいし、最大二十人で四十の動く鎧が出る。そして、ボス部屋は二十体の鎧が一直線に並ぶのに丁度いいくらいの広さなのだ。
近づいてみてハッキリした。左右に三体ずつ。やっぱり人数比例だ。
「でぃえりゃああ!」
鎧が一歩出たところで、左の列一番手前のやつを蹴り飛ばし、まだ抜かれていない鞘から剣を引っこ抜く。その件はすぐさま投げ捨てて、次に向かう。ガランガランと転がる剣が鳴りやむ間もなく、二番目の動く鎧を横から両手で突き飛ばす。派手な音を立てて転倒する鎧をさらに蹴飛ばしてから剣を奪い取る。右側の列でも同じようにけたたましい音が鳴っている。
最後、間に合え!
必死で走り、動く鎧ポーズを決めて抜剣したところにドロップキックを炸裂させることに成功した。
「剣を奪ったら入り口まで戻るよ!」
二人に指示を出し、ダッシュで動く鎧から距離を取る。ガッシャン、ガッシャンと派手な音を立てながら追いかけてくるが、やはり足は遅い。急いでメニューを開いて斧を取り出すくらいの時間はある。
セコイアとキキョウにも斧を渡し、拳を振りかぶって近づいてきた一体に向かって振り下ろす。カウンターとして認められたのか、斧がオレンジ色の光を放ち、そこに横からキキョウの攻撃が決まった。バランスを崩した鎧にもう一撃加えると、HPゲージは赤く光る。
あと五体!
少し離れたところでは、セコイアが二体を相手に『電撃』を放っちながら逃げ回っている。わたしとキキョウに向かってきているやつは三体。こちらも再び走って距離を取り、追いかけてきたところにタイミングを合わせて斧を叩き込む。すっぽ抜けたのかワザとなのか、キキョウは斧を投げつけ、その直撃を受けた動く鎧は大きくバランスを崩している。
「一旦離れて!」
武器が無いなら無いで、一体目の鎧のパーツを回収して足下に転がす係をやってもらえば良いだけだ。卑怯? 知らんがな。
斧を振り回し、地道にHPを削っていると、鎧のパーツを持ったキキョウが戻ってきてガラガラと鎧たちの足元に転がしていく。なかなか転がすか角度とタイミングが上手い。パーツを踏んづけてバランスを崩したところにわたしの斧が直撃して二体目のHPがゼロになった。
さらに三体目、四体目を始末したら、残りは簡単だ。セコイアを追いかけている動く鎧を後ろからキキョウと二人で斧でブン殴り、蹴りをブッ込み、振り返って反撃する間も与えずにHPを削りきる。
「じゃあ、ボス本番行こうか。適当に大きめの鎧のパーツを回収して」
二人に指示を出し、わたしはダッシュで奥に向かう。伊藤さんよやったときはのんびりしていたが、骸骨も動く前に剣を奪ってしまえるならばそうしてしまった方が良い。案の定と言うべきか、骸骨は大きな椅子に座っていた。
唐突に骸骨の目が紫色に光り、立ち上がろうとする。そこに大上段から振り下ろした斧が脳天に直撃した。
「立たせるかァァァ!」
叫びながら斧で滅多打ちしてやると、骸骨のHPはゴリゴリと減っていく。しかし、それにもめげず骸骨は立ち上がって剣を抜こうとする。
なんてホネだ! 凄い根性をしている。
斧を構えながら、わたしが後ろに下がると、それに合わせるかのように骸骨は前に足を踏み出してくる。
そして、キキョウの転がした鎧に足を取られて転倒した。
「よっしゃあ! ぶっ叩けえええ!」
転倒した骸骨を三人で囲んで斧でタコ殴りにすると、HPゲージはすごい勢いで減っていき、赤く光った。その前に腕を蹴り剣を落とさせるのも忘れない。
「よっしゃ、余裕!」
「何か凄い卑怯くさいような気がするんだけど?」
「こんな勝ち方で良いの?」
二人は非難するような、呆れたような言い方をするが、これで良いのだ。相手の弱点を突くのは立派な戦術だ。ボスを相手に複数人で取り囲んでタコ殴りにするのだって、今までのゲームだって普通にやっていることだろう。
「そんなことよりも、剣を回収しないと」
投げ捨てた動く鎧の剣は、あちこちに転がっている。一人二本ずつ剣が手に入るんだから、わたしの貸した『安物の剣』は返してもらう。ほんの少しだけど『古びた剣』の方が攻撃力高いしね。尚、骸骨の剣はわたしが貰うことになった。
奥の小部屋に行くと、宝箱が三つあった。クリア済みでもパーティー人数の分出るのね。わたしの宝箱の中身は水晶玉に革袋、そしてメダルが一つだ。宝箱には名前が書いてあるので間違えないで済む。
『帰還の水晶』がいくつもあっても意味がないと思うんだけどと思ったら、『安物の水晶』だった。
「二人とも帰還の水晶出た?」
「うん」
「出たよ」
やはり、二個目は取れない仕様なのだろう。売却したら再び出るのかもしれないが、再入手不能だったら困るのでそれは試せない。
「じゃあ、張り切って第二階層に」
「行く前に、やることがあるのですよ。あのスキルは便利だし、早めに取っておいた方が良い」
「あのスキル?」
一つ、やることを忘れていた。首を傾げる二人を連れて、芋虫部屋へと向かう。ボス部屋に進んでしまうと『帰還の水晶』で一度町に戻らないと第一階層側に出られないようだが、『鏖殺』は初期に取れるスキルにしては強力だし、見逃す手はない。