007 攻略! 第二階層にGO!
ふと、床に目を落としてみると、魔法円のような文様が刻まれているところがあるのを見つけた。周囲を見回してみても、他に似たような文様はない。
その中央に立っても何も起こらない。なぜだ。
手で触れる必要があるのかと、しゃがんだら操作パネルがポンと出てきた。だから、なぜだ。
このゲームの操作感がイマイチ分からないが、とりあえず出てきたパネルを見てみると、探していたもので間違いなさそうだった。
『クリア者を次の階層へと転送する。CPを消費してゲートを開くことができます』
こんなところでもCPを使うのか。今まで全く使っていないし、レベル上昇とともに増えて現在は八十九になっている。二くらいなら使っても大丈夫かな。
ボタンをタップすると、魔法円から光が立ち上る。黄緑の光が揺らめきながら天井にまで達するが、わたしはまだボス部屋の前だ。転移ゲートじゃないのかよ?
と思っだが、今のはゲートが開いただけだったらしい。一度光の中から出て、再度、中に入ると『第二階層に転移しますか?』とパネルが出てきた。その下の説明によると、転移そのものはノーコストで、ボスクリア者ならば誰でも使えるらしい。そしてゲートの起動者の名前と残り時間が表示されている。
転移する、と書かれたボタンをポチっとタップすると、わたしの視界は白に塗りつぶされていく。目を閉じても白いというのが不思議な気分だが、こういうのは本当にフルダイブVRだからこその演出だろう。
真っ白の状態は、そう長いこと続きはしない。すぐに視界は色を取り戻していく。いや、色はない。今度は真っ暗だ。
白くなったり黒くなったり忙しいな。最初から暗くなれば良いんじゃないかと思ったけど、それだと転移完了が分からないのか。
メニューを開くとちゃんと見えるし、明かりの魔法を使えば、薄明るくなる。単に明かりの魔法の効果が切れただけだったみたいだ。たまたま効果時間が切れたのか、転移したら消えるものなのかは分からない。
また今度転移したら分かるだろうし、別にそこは悩む必要はない。
周囲をぐるりと見回してみるが、何もない小さな部屋ということが分かっただけだった。この部屋は、転移の出口というだけの場所なのだろう。扉が一つあるだけだ。
開けて出ると、少し広い部屋だった。左側には登り階段、右には出口が外から明るく照らされている。階段は第一階層へつながっているのだろうか、とりあえず、明るい外に出てみることにした。
そこは、所々に木の生えた草原が第二階層だった。ただし、頭上に空はない。高い天井にびっしりと水晶のようなものが光っている。
思ってたのと違うが、ダンジョン内フィールドというやつか。
出てきた方を振り返ると、岩壁が天井まで続いている。ぱっと見の天井の高さは二十メートルくらいはありそうだ。そして、それが左右に長く長く伸びている。
だだっ広いフィールドをどう探索しようか。まず、この岩壁に他に洞窟みたいなのがないか探してみよう。ボス部屋は多分奥の方だけど、宝部屋みたいなのがあるかもしれない。
ということで、壁に沿って歩いていくことにした。方向は出口から見て左手側。別に左に意味はない。後で右にも行くし、迷う価値がないから気分で秒で決めただけだ。
第二階層はほぼ完全に未知のエリアだ。どんな敵が出てくるかも分からない。探索中は、いつ、敵に遭遇してもすぐに対応できるよう、右手の剣は抜いて下に構えたままにすることにした。鞘に収めると、抜くのに時間がかかってしまう。抜剣の練習はした方がいいだろうと思うが、それはまた今度だ。
崖に沿って怪しいところはないかなと探しながら進んでいると見つけた。壁が大きく凹んでいて、その前に大岩が突き出ているのだ。これは怪しすぎる。
大岩と壁の隙間に入っていくと、大岩の方に地下への入口を見つけた。既にここが地下だというツッコミは無しだ。とにかく、下に向かう穴があるのだ。
慎重に中に入ってみると、細い道は大きく曲がりながらしばらく下りが続き、坂が終わったと思ったら道は右に左に曲がりくねっている。
分岐がないし、敵も全く出ない。楽で良いが、逆に罠の予感がしてならない。あるいは、やたらと強力なモンスターが待ち受けているのか。
だが、何もないまま道は終わり、かなり広い部屋に出た。
部屋の中を見回していると、に入ると、カツン、カツンと音が聞こえてくる。動いているものの姿は見えない。音も反響してどこから聞こえてきているのか分かりづらい。
だが、勘違いではない。何者かが歩き回っているのだろうと思われる音は止むことはなく続いている。
部屋の広さはかなり広い。奥の方には魔法の明かりが届かないくらいだ。忍び足で壁に沿って部屋の中を探索する。
音の感じからすると、敵の数は一匹だろう。だが、動き回らない敵がいないとも限らない。とにかく、敵を見つけるのが優先事項だ。
ゆっくり、ゆっくりと進みながら敵の姿を探すが、見つからないまま入口に戻ってきてしまった。敵は部屋の中央付近にいるということか。
左手の剣も抜こうかと少し迷い、やっぱりやめた。練習もなしに二刀流なんてできると思えない。明日にでも伊藤さんに教えてもらおうか。
剣を体の前に構えて部屋の中央に進んでいくと、足音はよりハッキリと聞こえる。やはり、こちらで間違いないようだ。だが、敵の姿が見えない。一体、どこにいるんだろう?
その理由はすぐに分かった。地面の下から、音とともに兜頭が現れ、すぐにまた下に引き返していったのだ。中央には下の穴があるのだろう。そこを行ったり来たりしているようだ。
なるほど、この暗い中で離れていては、あれは見つけられない。せいぜい肩のあたりまでましか姿を見せないのだ。
まだ気づかれていないようだし、敵が下りていくところを見計らって接近する。穴の淵から見下ろすと、敵はやはり一匹。鎧を着込んだチビデブが幅二メートル弱の階段を下りていた。チビデブ相手に緊張しまくっていたと思うと、なんだかとても腹が立つ。
階段は真っ直ぐ続いていて、結構深い。七、八メートルは潜るのではないだろうか。普通、駅などでもこの長さなら折り返すものだが、仮想空間内に身体障害者はいないし、落ちても現実の肉体が怪我をするわけでもないのだから、安全に配慮する必要もない。
敵にまだ気付かれていないなら、わたしのやることは一つ! 穴の淵で待ち構え、チビデブがまた上ってきたところを目掛けて飛び蹴りを食らわせる。
飛び蹴り、というより飛び降りて踏み潰したと言った方が正しいかもしれない。
だが、チビデブがいくら雑魚敵といっても、それだけで死ぬ程ヤワじゃなかった。普通の人が生身でこんな攻撃食らったら死んでしまいそうなのだが、HPが三分の一くらい減っただけだ。見た目では傷一つついていない。
だが、心配することもない。ここは階段で、敵は転んだところから起き上がったところだ。反撃される前に上から思い切り突き飛ばしてやると、チビデブはHPをゴリゴリ減らしながら長い階段を転げ落ちていった。それを追いかけて階段を駆け下りて、さらに蹴りを何発が叩き込んでトドメを刺す。
階段を下りた先は細い通路になっていて、その奥に扉が見える。だが、扉を開けるよりも、チビデブが階段の途中に落とした斧を回収するのが先だ。インベントリに仕舞ってから、改めて奥に向かう。
ノブを回して無造作に扉を開けると、その先は広間になっていた。そして、そこには数え切れないほどのチビデブがいた。一斉こちらを振り向くと、ギャアギャアと喧しく喚きながら殺到してくる
さっきのは扉を守っていたのではなくて、ただの見張りか! 少しは怪しめよ、わたし!