006 苦戦⁉ 普通の人は戦い慣れていないよね!

迷宮を歩いていると、人と結構すれ違う。魔物と戦っているのも見かけるけど、みんな結構弱い。恐らく初期装備の剣を振り回しながら、チビデブ相手に苦戦している。

見ていると、結構防がれているしかわされているし、そして反撃されている。

わたしの方はチビデブも芋虫も、もはや大した脅威にならない。蹴り飛ばして剣を突き刺してそれで終わりだ。キックのレベルも上がっているし、大分楽になっている。

マップを塗りつぶしながらダガーを奪いっていると、レベルは十になってしまった。

どうしよう?

まだ第一階層のマップは塗り残しがある。だけど、そろそろ第二階層に挑戦しても良いレベルなような気もする。

ちょっと迷って、第二階層に行ってみることにした。そろそろ他の人もボスを倒していても良い頃だ。

「えーと、ボス部屋が真ん中の奥だから、ここからだと、どう行けば良いんだ?」

わたしは地図が読めない女ではない。わたしは、地図をくるくる回す女ではない! 洞窟は迷路のように入り組んでいるし、周囲を見回してみても、似たような岩壁しか目に入ってこない。いや、チビデブがいた。

ギャアギャアと喚きながら向かってくるチビデブを蹴り殺し、一旦入口の方へと向かう。どこかの道から通じていなくもないと思うけど、迷った挙句に辿り着けなかったら嫌なので、安全策をとることにしたのだ。

急がば回れってやつだ。

入口が近づいてくると、すれ違う人の数も増えてくる。みんな、もっと奥まで行こうよと思う。マップで見て入り口からボス部屋までの直線距離を十とすると、一から二くらいのところに大多数のプレイヤーがいるんじゃないかという状態だ。

「ねえねえ、ちょっとこの辺、込みすぎじゃない?」

「仕方ねえだろ、あんまり奥に行くと死んじまうじゃねえか」

声をかけてみるとこんな具合だ。頭上を見るとHPは半分くらいにまで減っている。

「みんな、ビビリすぎなんだよねえ。思い切って攻撃しないから反撃されるのに……」

仮想空間で「リアルな」というのもナンセンスだが、ボタン押すだけのゲームじゃないリアルさが、多くの人の腰を引けさせているんだと思う。

小型とはいえ化物モンスターが刃物を持って襲い掛かってくるのは、とても現実味があって怖い。だが、それを乗り越えないと、ゲームを楽しむことはできないだろう。

「ほら、こうするの」

出てきたチビデブに助走をつけた蹴りを浴びせてそのまま剣で突き殺す。もう一匹に向かってバットをフルスイングするが如き横薙ぎの攻撃で吹っ飛ばし、転んだところを突き刺せばそれで終わりだ。

「……豪快だな」

「攻撃は最大の防御! っていうか、チマチマやっても反撃されるだけだし、楽しくないよ?」

「参考にしてみるよ」

入り口付近でビビっている人たちとパーティーを組む気にはなれない。誘うなら、もうちょっと奥まで進んで頑張っている人だね。

「ふう、着いた」

マップを見ながら道を戻り、ようやく入口に着いてから気が付いた。ここまで戻るなら、水晶玉使えば良かったじゃん! 一瞬で町まで戻れるのに!

気を取り直して、ボス部屋に向かう。マップを最大表示にして道を確認しながら進んでいけば、そんなに遠くはない。道を間違えなければ、入口から十五分もかからないくらいだ。

奥に進んでいくと、どんどん人は少なくなり、敵に出会う確率は増えていく。だが、全く人と会わないわけでもない。

道の先では盾を構えた二人組が芋虫相手に奮戦している。道はあまり広くないので、無視して通り過ぎるのは難しそうだ。

こういうのが一番面倒なのだ。手助けを求められない限り、こっちから手出しをするものじゃない、というのがネットゲームのマナーだ。彼らの戦いが終わるのを待っているしかない。

芋虫の数は少し多めで、六、七匹くらいはいる。

芋虫の動きを盾で抑えて剣で攻撃しているが、二人の連携は全くない。横に並んで戦っているだけだ。

苦労して芋虫に剣を振るっているが、剣の扱いには慣れていなさそうだ。二人とも動きがぎこちない上に、攻撃が単発なのだ。

やっと三匹を倒したと思ったら、上からボタボタと芋虫が四匹降ってきた。なるほど、それで数が増えちゃっているのか。だが、これではわたしも先に進めない。

「手伝おうか? そのペースじゃ終わらないでしょ?」

「済まん、頼む」

了解を得たということで、ダッシュで芋虫に詰め寄る。そしてそのまま必殺シュートだ。サッカーマンガのエースストライカーになった気分で「でぃやあああ!」とか叫びながら思い切り芋虫を蹴飛ばす。

グピャーとか鳴きながら転がっていくやつは放っておいて、襲いかかろうとしてくる芋虫の頭に剣を突き立てる。

芋虫のスピードは大したことがない。一気に攻撃を畳みかけて殺してしまえば反撃を受けることもない。次々と倒していけば、十匹足らずなどすぐに片付いた。

「マジかよ」

「瞬殺かよ」

「考えられる最速で攻撃した方が良いよ? わざわざ反撃する余裕を与えても意味ないし」

「そういう考え方もあるのか」

そういう考え方しかないと思う。雑魚敵とのんびり戦っていても得られるものは無いだろう。

「じゃあ、わたしは先に行くんで。進めれるところまで進めないと」

それだけ言って、さっさと先へと進む。目指すは第二階層。雑魚敵に時間を取られていても仕方がないのだ。

ボス部屋に着くまでに出てくる敵に変化はない。ひたすら芋虫、時々チビデブを倒しながら進んでいけば問題なく到着する。もう少し、敵のバリエーションがあっても良いような気がするが、難易度の兼ね合いもあるのだろう。

入口付近の現状を考えると、これで正しいのかもしれない。色々なタイプの敵が出てきたら、ほとんどの人は第一階層をクリアするまでに時間がかかりすぎてしまうだろう。

でも、ボス部屋の前に来てみると、他にも人がいた。剣に槍、斧を持った三人の戦士風それに魔法使い全部男性の四人組だ。

大多数が入口近くから進めない中でも、ここまで来る人はちゃんといるようだ。彼らも武術か格闘技でもやっているタイプなんだろうか?

パーティーに誘ってみようかとも思ったが、四人で話をしているところに割り込むのも悪いし、とりあえずボス部屋をスキップできるような仕掛けがないか調べてみる。

扉には何も変わったものはない。両の扉に向かい合うようにドラゴンのような彫刻が施されているが、それを触ってみても何も起きない。

「おい、俺たちが先だろう!」

他に何かないかと調べていたら、四人組に難癖をつけられた。

「入るならサッサと入れば良いじゃない」

「作戦練ってるんだよ! 見ればわかるだろうが」

「作戦も何も、ボスの情報って持ってるの?」

「情報が無いからこそ、慎重に作戦を立てなければならないんですよ」

わたしは、情報が無いなら、考えるだけ無駄だと思うんだけどな。あらゆるパターンを想定できるわけなんてないし、パターンAからZまで二十六も用意しても、どうせ詳細を覚えきれない。

結局、二つ、三つに絞り込むんだけど、やっぱり情報がないから、結局のところ、得意のやり方でやってみるしかないという結論にしかならない。

「敵の情報、欲しい?」

「なんでお前が知ってるんだ? 今来たばかりだろう」

「さっき、倒したから。第一階層の探索が半分も終わってなかっから、そっちやってただけだよ」

「まだサービスインから四時間くらいしか経ってねえだろ? 俺たちが一番乗りじゃないのかよ⁉」

四人組は騒ぎ出すが、わたしたちが第一階層のボスを倒したのは、今から二時間以上も前だ。サービスインから二時間でボスを倒して帰っていった伊藤さんが異常なだけな気がするが。

「……マジだ! 第一階層の初回記録ってあるぜ。この記録のとこだ」

メニューを操作しながら槍の男が声を上げる。そういえばメニューにそんな項目があったような。最初に見たときは何もなかったから気にしていなかったけど、自分のイベント記録じゃなくて、他の人の記録が共有されるのか。

「もしかして、あんたがこの伊藤桜花か?」

「わたしはユズの方。ま、金魚のフンだね」

伊藤さんと一緒にしてもらっては困る。わたしはそんなに強くない。

「金魚の本体はどこいったんだよ?」

「ゲームは一日二時間だってログアウトしていったよ」

「小学生かよ! まあ、そんなことよりも、ボスの情報だよ」

まだ、サービスインしたばかりで、ボスの情報などどこにもないだろう。もしかしたら、倒したのはまだわたしたちだけかもしれないくらいだ。

動く鎧リビングアーマー骸骨スケルトンが出てくると教えてやると四人組は頭を抱えだす。これまでの敵には、普通に剣や槍が通用していたが、全身金属のフルアーマーには効果が薄いのが最大の問題だろう。

だが、斧を持つ人もいるし、頑張れば何とかなるんじゃないかと思う。

「なあ、一緒にやってくれないか?」

パーティーに誘われたが、考え方が大きく異なる人と上手くやれる自信はない。互いに足を引っ張りあう結果になったら目も当てられない。

丁重にお断りして、ついでに「可能な限り速攻で当たって、敵の数を減らした方が良い」とアドバイスしておく。

「サンキューな」

「じゃあ、行ってみるよ」

彼らが気合を入れてボス部屋に入っていくのを見送って、わたしは周辺を調べる。扉にも壁にも何も怪しい箇所はない。

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