067 作戦会議
「そなたらの成果は予想以上の結果となったことは、疑いようのない事実だ。そのことそのものに関しては秘匿する必要はない。」
春から夏にかけて私たちがしたこと、そしてその結果として、収穫がどれほど増えたのかはありのまま説明したので構わないということだった。
そこまでは何の問題もない。
具体的な畑の面積、栽培した作物、そして収穫量に関しては数字も含めて私たちは諳んじることができる。
「できるだけそこに話題を集中させてくれ。領内の全体的なことには触れなくて良い。」
「来年の方向性についてはどうは説明すれば良いですか?」
「そなたらの管理する畑は増やす。それ以上を聞かれた場合は、基本的には私に振ってくれたので良い。」
どの程度、私たちの管理する畑を増やすかは、成績次第でもあると言えば、それ以上私たちに食い下がってこないだろうと言う読みだ。
そもそも私たちには決定権などないことは、他の領主たちに分からないはずがない。ハネシテゼはある程度決定権を渡されているようだが、そっちの方が例外だ。
「いくら大人たちから注目を浴びる存在であろうとも、そなたらは十歳にもならない子どもだ。より多くの畑を任されるよう頑張っている、と答えたので何の問題もない。」
本来なら仕事を任される年齢ではないことを強調すれば、それ以上追及されないはずだし、もし、追及してくる者がいてもそれは全て父に聞くよう答えれば良い。
私もフィエルもそれを聞いて納得する。
「実演や指導を依頼された場合はどうすれば良いでしょう?」
「それも全部私に言うように答えてくれ。そなたらでは調整することもできぬだろう。デォフナハやブェレンザッハらとも話を合わせねばならぬ。」
とにかく自分たちを優先しろと強く出られたら、私たちにはどうすることもできない。私たちには決定権がないので何も約束できないと答え、どうしてもと言う者には父と交渉するよう勧めることで決まる。
「黄豹についてはどう説明しましょう?」
「こちらからは決して触れるな。黄豹とともに魔物退治に行ったことは決して口にしてはならぬ。あれに唯ならぬ感情を持っているのは私だけではない。」
下手なことを言うと反感を買うことは間違いなく、「仲良くなった」などと言えばその場で叛逆者の謗りを受けることも十分に考えられると父は声を大にする。
「魔物退治について触れる必要があるなら、畑の周辺でのことに終始しておくように。想像していなかった数の魔物がいたのだ、話として不適応ということもあるまい。遠征はラインザックの仕事だ。」
嘘を吐けば必ずボロがでる。公表しても問題のない事実の一部分だけを説明すれば良い。
想定される質問を挙げていくと、概ねどのように対応すれば良いのか見えてくる。受け答えの仕方についておおよその目処が立てば私たちも安堵の息が漏れる。
「それよりも、杖の方は大丈夫なのか?」
「先ほど説明したこと以上は本当に存じていませんので、知っていることを答えるだけです。私たちに教えてくれたことに関しては、ハネシテゼ様は隠すつもりもないようなのでそれで問題ないと思います。」
幸いと言うべきか、私たちの杖は作成者以外には使うことができない。作成を依頼されても、私たちの杖が増えるだけだ。
見せてほしいという要望には、年明けの演習の際に見に来てくれれば良いと答える予定だ。
パーティーに杖を持っていく予定などない。そもそもとして、パーティー用の衣装は杖を差すことを考えて作っていないのは大人たちだって同じだ。今すぐ見せろと言われたって、見せられるはずもない。
「ジョノミディス様やザクスネロ様も同様の対応になるはずです。彼らの杖も、家族には使えぬでしょうし、父君や母君の判断も変わることはないと思います。」
「確かにこれではな……。念のために確認するが、本当に他人が使えるようには作れないのか?」
「もしかしたらハネシテゼ様は知っているのかもしれません。ですが、他人にも使えるようにする方法があるのかは教えられていません。」
ハネシテゼが秘匿している可能性はなくもない。だがその可能性について、私たちは尋ねてもいない。
尋ねて「秘密です」と答えられたら、秘匿していることを知ってしまう。できるだけ嘘は吐かない方が良い。知らないままでいた方が良いこともある。それくらいのことは私も知っている。
「賢明な判断だ。ならば、詳しくはデォフナハ男爵にでも聞けば良い、とでも言っておけば良い。」
大人たちへの対応方針が一通り固まると、ファーマリンキ公爵令嬢の対応の話に戻る。
「不安材料が多すぎます。私としては、今からでも出席を考え直していただきたいと存じます。」
私たちが主導してやることができなければ、モベアリエラは孤立してしまうだろう。誕生日パーティーもまだなのだから、親しい友人などもいないはずだ。
友人がいるにしても出席しないのだろう。そうでなければ私たちに話が来ることもない。
「そもそもとして、パーティーに出席するのは八歳からですよね?」
「昨年、ハネシテゼが六歳で出席していただろう。それに合わせて第四王子殿下も出ている。そなたらも顔を合わせただろう。」
問題は第四王子か。
彼の出席は、完全に慣例から外れたものだろう。そして、それを前例としたらファーマリンキ公爵も、六歳の孫を出席させないわけにはいかないということか。
「そんなの、王族の落ち度ではございませんか。」
「滅多なことを言うものではない。」
今になって思えば、第二王子はハネシテゼのトラブルをワザとに大きくしたのではないだろうか。第四王子が孤立してしまっているのを誤魔化すためにやったと考えても不思議ではない。
「今年はトラブルは起きぬ。デォフナハも何の対策もしていないということもあるまい。」
上手く誤魔化せる何かに期待するだけ無駄だと父が言う。しかし、そうなると、本当にどうしていいのかが分からない。
「ファーマリンキ公が近くにいらっしゃるうちに食べ物の話をしてしまえば良いのではありませんか?」
私たちが唸り声を上げていると、フィエルの側仕え筆頭が提案してくれた。
つまり、ファーマリンキ公爵の目の前でわざとに他の大人が興味を持つような話題を振り、モベアリエラを含めて畑や収穫について説明すれば上手く場をまとめることもできるだろうということだ。
「ブェレンザッハ公や王子殿下が来さえしなければそれで乗り切れるな。」
「公爵閣下はともかく、王子殿下は困りますね……」
ブェレンザッハ公爵ならば、ジョノミディスからある程度の話は聞いているだろう。わざわざ私たちのところに来ることもあるまい。
「ラインザックたちにも王子の動きには注意をさせよう。ファーマリンキ公爵側でも変な茶々が入らぬよう気を配るくらいはするだろう。」
それ以上は、私たちに対処できない不測の事態が発生しないことを祈るしかない。
作戦会議が修了すると、私たちは部屋へと戻って衣装を確認したり挨拶の復習など、パーティーに向けての準備を進めていく。