066 年末の話しあい

「久しぶりだな、ティアリッテ、フィエルナズサ。学院の方は大事はないか?」

一年の最後の日、つまり冬至にわたしたちは寮から王都邸に帰る。翌日は日復祭のパーティーがあるし、打ち合わせや衣装の最終確認は誰だって必要だ。

朝食後すぐに迎えの馬車がやってきて、やしきに着いたらすぐに父の部屋へと向かった。

「座学は何も問題ございません。」

「魔道には少々てこずっておりましたが、杖にも慣れてきましたので、年明けからは問題なく課題をこなせるはずです。」

「その杖とやらを見せてもらえるか?」

父に言われて、私とフィエルは腰に差していた杖を父の机に並べる。

杖には母も興味があるようで、席を立って覗きにやってくる。

「本当にこれで魔法が使えるのか?」

「はい。この杖を使えば、腕輪の数倍の威力の魔法を放てます。」

そして、作成者本人以外には使えないことも確認済みだ。私の杖はフィエルが持っても何の役にも立たなかったし、その逆も同じだ。

「あなたたちは、私の杖は使えたのでしょう?」

「はい。腕輪との効率の差に驚かされました。」

「この杖は、お父様やお母様の杖とは造りが違うのではないかと思います。」

ハネシテゼ曰く「所詮は子どもが作った安物の杖」ということなのだが、そういう問題でもないような気がする。

「これをラインザックらのために用意できるか?」

「春になれば材料は用意できるでしょうけれど、ご自分で取りに行った方が早いのではないでしょうか。それに、自分で作らなければなりませんよ?」

モロジュンと、プノミユの見分け方は教わったので、森に行けば採ってこれるはずだ。デォフナハ領と王族直轄領に生えているのに、その間にあるエーギノミーアには生えていないということもあるまい。

それでも、どこに生えているかは知らないし、探して回る必要があるが、私よりも兄や姉の方が森には詳しいはずなのだ。名前や特徴を伝えればどこに生えているかも見当がつくかもしれない。

魔物のツノは私やフィエルに任される意味が分からない。そもそも、魔物退治は長兄ラインザックを中心に行っていることなのだから、退治したついでに取ってこれば良いだけだろう。

そう説明すると、父は困ったように眉間に皺を寄せる。

「これは魔物のツノで作られているのか。それならば確かに自分で取ってきた方が早いな。それで、モロジュンとかいう草はどのようなものだ?」

「円い葉が特徴の、棘が生えているつる草です。葉の大きさは私の手のひらくらいでしょうか。」

それだけの説明でも父には分かったようで、「森の浅い所にもそこらじゅうに生えているではないか」と呆れたように言う。だが、そのように言われたって、私はまだ森には数えるほどしか入ったことがない。

「ラインザックたちには材料と作り方を教えれば十分でしょう。」

プノミユの木の説明もすると、これも父や母には分かるようで、春に領に帰ればすぐに材料は揃うだろうと頷き合う。

「材料は良いのですが、兄上たちは本当に作るつもりがあるのでしょうか?」

私もそこは疑問に思うところだ。結構面倒な作業を、自分で全部やらなければならない。少なくともハネシテゼは、他人の魔力が混じると失敗すると言っていた。

「草を掘り起こしたり、樹液を集めるくらいならばともかく、加工作業は側近や部下に任せることはできません。」

私も公爵家の者として相応しくないと何度も苦言を呈されたし、それは成人済みの兄の方が言われるだろうことは想像に難くない。

「魔力を使う作業なら、仕方があるまい。領主一族の仕事は騎士や側仕えに任せるわけに行かぬのと同じだと納得させる以外には無いだろう。」

そう締めくくると、父はやっと本題へと入る。

「明日はファーマリンキ公爵の初孫が出席するはずだ。」

「ええと、モベアリエラ様、でしたよね? もうパーティーに出るお歳でしたかしら。」

「六歳になっているはずだ。」

普通は、年始のパーティーに出席するのは八歳になってからだ。だが、今年は六歳のハネシテゼは普通に出席していたし、それに合わせてか、第四王子のセプクギオも出てきていた。

今後はそれが普通になるのだろうか。

「あの忌々しきデォフナハのせいだ。」

どうにも父はデォフナハ男爵のことは目の敵にしている。

同派閥で隣同士という以前に、食糧を融通してもらったりしているはずだし、そう嫌わなくても良いと思うのだが。

「それはともかく、上手く相手をしてやってくれ。」

「そう言われましても、学院に入学してもいないのですよね? どのような話題にすれば良いのでしょう?」

「歳の近いそなたらの方が分かるだろう。」

分からないから聞いているのだ。通常ならば七歳の誕生日パーティーから親交を深めていくはずだ。日復祭のパーティーで目立ったお披露目などできないだろうし、親からの紹介はほとんど期待できないはずだ。

大人は大人どうしの社交があるし、子どもに張りついていることなどできない。見知らぬ同士で話をするならば、無難な話題から入るしかないのだが、それはそれで問題がある。

「私たちから、食べ物の話をしてしまって良いのでしょうか? 本来ならお菓子の話は無難な話題なのですが、今回は違うでしょう?」

ファーマリンキ公爵令嬢モベアリエラと話をするにも、周囲に誰もいないなんてことはないはずだ。私たちが食べ物についての話題を出したら、周囲の大人たちが食いついてきてしまう可能性だってある。

「ティアリッテの言うように、食べ物の話を出せば、収穫のことを問われるのは必然だと思います。その話をするなら、最初から王族やファーマリンキ公爵閣下のところで話をした方が収拾つけやすいのではありませんか?」

子ども同士のところに大人に群がられたら、私たちだけで場を収めることはできないだろう。どうにかしてくれる大人は必要だ。

「なんとか他の話題から上手く繋ぐことはできぬか?」

「学院の入学もまだ先ですし、楽器や舞踊のお披露目もないのではその話題もできません。」

誕生日パーティーならば、何らかの芸事が披露される。それについて「お上手ですわね」から話を進めていくのは、一つのお約束だ。

「困ったな。」

父は眉根を寄せて考え込むが、今からでも出席を取り止められるなら止めてしまうのが一番無難だろう。モベアリエラとしても、変な失態を犯したくはないはずだ。

「私としては、今日のお話は、明日、何を話して何を話さないようにするのかの確認だと思っておりました。」

「ええ、収穫についてはもちろん、杖についての話を聞きにくる者もいるかと思います。杖に関してデォフナハ男爵からは何かあるのでしょうか?」

「そなたらには前面に出てほしくない。いや、そもそも、まだ二年生のそなたらが前面に出て話をするということ自体がおかしいのだ。」

そうはいっても、大人たちが私たちに寄ってきたら、止めようがない。父か母でなければデォフナハ男爵、あるいはファーマリンキ公爵に出てきてもらわなければ困る。

公爵でなくとも、侯爵や伯爵本人に来られたら私たちだけでは拒むことすらできない。

「ねえ、ミッドノーマン様? 他の方々には収穫についてどのように説明されているのですか? 各領主には説明済みですと答えれば済むならば、ティアリッテたちも不安になることもないでしょう。」

困り果てた私たちを見かねてか、母が助け舟を出してくれる。

「父上の説明と私たちの話が食い違うようなことがあっては困ります。」

私とフィエルもすぐにそれに乗り、まず、父がどの情報を公開して、何を秘匿しているのかを確認することにした。

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