065 私たちの失敗

無事に杖が完成し、その次の魔道演習はちょっとした騒ぎになってしまった。

突如として私たち四人が揃って杖を使い始めれば、当然、他の子たちとしては一体どうしたのかと気になるだろう。それがたとえば、ジョノミディス一人だけだったならば、第一公爵家は格が違うという話で終わりはしたのだろう。

だが、四人が同時にとなれば、親に与えられた時期が偶然にも一致したなどといっても納得などしないだろう。誰しもが、何らかの裏があると考えるのは当たり前のことだ。

そして、騒ぎになったもう一つの理由として、私たちが揃って魔法の出力制御に失敗したことがある。

私とフィエルは母の杖を借りて使ったことがある。

その経験を踏まえて、今までの半分程度の力で魔法を使ったのだが、それでも強すぎた。

杖を使ったことのないジョノミディスやザクスネロも腕輪との感覚の違いに戸惑いが大きかったようだ。強すぎたり弱すぎたりとまるで上手くいかなかった。

「杖を使うなとは申しませんが、少々振り回され過ぎです。他の人に迷惑ですので、威力はとにかく抑え気味にするように。」

ミャオジーク先生にも、そう苦言を呈される始末だ。悔しいが、これは反論することもできない。

そんな醜態を晒してしまったせいか、杖の入手について聞かれることはなかった。誰だって失敗するところを他人に見られたくはないだろう。

私たち四人が四人とも失敗しているのだ、杖に慣れないうちは失敗するというのは明白だ。それでも手にしたいと言うのは、かなりの度胸が必要なことだ。

十八時の鐘が鳴ると演習の時間は終了なのだが、私たちは即座に居残りでの演習を願い出る。

「トップグループから居残り演習を言われたのは、記憶にある限り初めてですよ。」

苦笑しながら先生はそう言うが、それは在学中に杖を使うようになる生徒がいないからだろう。今までと大きく感覚が変わってしまえば、初歩の練習からやり直さなければ色々と不安がある。

居残りも十八時半までと、そう長く続けることはできないが、少しでも練習しておきたいのだ。

「私も訓練を続けたく存じます。」

私たちが再び的に向かっていくと、入れ替わりで侯爵家の子たちも揃って居残りを願い出ている。彼らは随分と熱心なことだ。

対照的に、第五と第七公爵家の二人は寮へと帰っていった。こちらの方が反応としては普通なのかもしれない。往々にして、私たちは優雅さや気品というものが求められる。

訓練や地道な努力などというものは、他人に見せないのが美徳とされている。居残りをしての訓練など、優雅さも気品もあったものではないと叱られてしまう可能性もある。

ハネシテゼは普通に帰っていったが、二年生首席どころか学院でもトップクラスの実力ではなかろうかという彼女には、居残りをする必要性がまったくない。

私はひたすら的に向かって火球を飛ばし続ける。

もともと得意としていた魔法の精度が酷いことになっているのだ。せめて去年の今頃程度にはしておかないと、今後が辛いだろう。

フィエルやジョノミディスはひたすら水魔法を頑張っている。横で見ていると、威力が安定していないのがハッキリ分かる。私も同じようなものだろう。

もっと集中しなければダメだ。

腕を大きく上にあげて天を仰ぎ、大きく深呼吸をする。

腕輪での魔法練習でも何度もやったことだ。初めて魔法を教わった七歳のときに、数え切れぬほど繰り返したことだ。

息を吸って、吐く。杖は軽く握り、的は正面から見据える。魔力を集中し、火球を撃ち出す。

無心で何度でも繰り返す。七歳のころから較べれば、魔力量には余裕がある。

「そろそろ時間です。みなさん、寮にお戻りになってください。」

ミャオジーク先生がベルを鳴らし、演習の終了を告げる。

「想像以上に調整が難しいな。」

演習が終わり、フィエルが大きく息を吐きだす。

私もまったく同感である。杖を使っての魔法の威力は、腕輪使用時に比べて体感的には三、四倍くらいになっている。その分だけ、今までより細かい調整が必要になるのだ。

「フィエルナズサやティアリッテは、以前、親の杖を貸してもらったと言っていなかったか? その時はどうしていたのだ?」

「あのときは、数え切れぬほどの魔物の群れを相手にしていたので、威力の調整など考える必要が無かったのです。」

数で押し切らんとばかりに迫ってきた魔物の大群を、とにかく一気に片付けていかねばならなかったのだ。威力の調整など考えず、広範囲に魔法を撒き散らすことが優先事項だった。

「そういう場合もあるのか……」

「滅多にないとは思います。けれど、一度経験してしまうと想定しないということはできません。」

一気に敵を殲滅するという方向でしか、杖の使用経験はない。だが、魔物退治では、騎士たちと連携を取るのもとても大事なのだ。自由自在に制御できるようにならなければ、一緒に魔物退治などできはしない。

「ハネシテゼ様はどうされていたのでしょうね。」

「どのような訓練をしたのか、明日聞いてみましょう。」

ということで、翌朝にハネシテゼに質問してみると、完全に予想外な答えが返ってきた。

「わたしは、腕輪で魔法を使えることを知らなかったのです。」

ハネシテゼは照れくさそうに言うが、もはや参考にならないどころじゃない。初めて魔法を使ったのが杖だというのならば、私たちの悩みは理解できないだろう。

「ただ、結局は魔力の制御なのですから、魔力放出の訓練をすればできるようになると思いますよ。」

ハネシテゼに訓練方法を聞くと、結局そこに落ち着いてしまう。端的に言うと、水に魔力を詰め込んで、抜いての繰り返しだ。

魔力を詰め込んだ水を持ちあげるのは比較的簡単だが、そこから持ちあげていられる限界まで魔力を抜いていくのはとても難しい。

ほんの僅かの魔力を出したり引っこめたりができるようになれば、魔法の制御で困ることはないと胸を張って言う。

魔力制御の訓練に割ける時間は少ない。

講義中にできないのは考えるまでもなく、魔術や体術の実技演習時でも、あまり余計なことはしていられない。

夕食後は座学に励み、二年生の分を早めに終わらせて三年生の分に取りかからないと、来年はもっと大変なことになってしまう。

休日は休日で、お茶会に参加しないわけにはいかない。上級生からも招待状はやってくるし、全て断るというわけにはいかない。

毎日やることは盛りだくさんで、朝から晩まで予定が詰まっているのだ。時間を取れるのは朝と昼だけになる。側仕えたちは「行儀が悪い」と嫌な顔をするが、魔力制御の訓練は食事の前後の僅かな時間でやるしかない。

毎日忙しく過ごしていれば、年末年始はもう目の前に迫っていた。

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